パリ五輪唯一の新競技で、9日夜(日本時間)に予選が始まる「ブレイキン」(ブレイクダンス)。もともと路上で踊られ、ラップやグラフィティ(落書き)、DJとともに、米国で生まれた「ヒップホップ」というストリートカルチャーのひとつだ。識者によると、フランスはヒップホップが盛んな国で、独自の発展を遂げているという。
先月行われた開会式の中盤。ルイ・ヴィトンの赤いジャケットを着たアルジェリア系フランス人の人気ラッパーRim’K(リムカ)が、フランス語の楽曲を披露する場面があった。
「リムカは米国のラップの受け売りではなく、自身のルーツであるアフリカの音楽を積極的に取り入れてフランス独自のラップ文化を作った功労者です」。「魂の声をあげる 現代史としてのラップ・フランセ」の著書があり、現地のラップ文化に詳しい、フランス文化研究者の陣野俊史さんはそう話す。
陣野さんによると、フランスには1980年代にヒップホップ文化が流入。最初の担い手は、パリ郊外の貧困地域に暮らすセネガルやアルジェリアなどからの移民や移民2世で、フランス社会に存在する不平等や差別などへの葛藤をラップで表現し、アフリカの音楽の要素も取り入れた。
リムカもこうした地域の出身。99年、所属するグループ「113(サントレーズ)」で、自身のアイデンティティーを見つめ直すような内容の曲を発表し、アフリカとラップをさらに強く結びつけた。五輪開会式で披露したのは、過酷な人生でも恐れずに進み、連帯して平和な未来を目指そうというメッセージが込められた曲だった。
今回のパリ五輪で、ブレイキンは初めて五輪の正式競技として採用されました。フランスは、ブレイキンを含むヒップホップカルチャーが盛んな国のひとつ。近年は公費を投じて表現者の育成や文化の発信に取り組む例もあるそうです。記事後半では、フランスにブレイキンが伝わった経緯などについて、日本と世界のヒップホップの動向に詳しい識者にお話をうかがっています。
陣野さんは、開会式へのリム…