長らく実質賃金が上がってこなかったところに、突然訪れた物価高に苦しむ国民の怒りが表れたのでは――。BNPパリバ証券の河野龍太郎・チーフエコノミストは、今回の衆院選の結果についてこんな見解を示します。そのうえで、賃上げに向けた分配構造の転換を訴えます。
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この四半世紀、日本の時間当たり実質賃金はまったく上がってきませんでした。それでも、物価は安いし、物価上昇率も低くて何とか生活できてきた。そこに、この3年余り、円安に伴うインフレが起こり、実質賃金が大きく目減りしました。生活が相当苦しくなり、暮らしが脅かされているといった怒りが、日本型のアンチ・エスタブリッシュメント(既存の支配者層への抵抗)の政党が躍進するという結果につながったのではないかと考えています。
そもそも、長らく実質賃金が上がらなかった要因は二つあります。
二つの要因
一つは、バブル崩壊以降、大企業が長期雇用を前提とした安定的な企業経営のために、積極的な賃上げや人的資本投資をせずに自己資本を積み上げてきたことです。長期雇用のもとで定期昇給(定昇)さえあれば、正社員は雇用が守られるので納得してきたと思います。しかし、この3年間の物価上昇による実質賃金の減少を補うことはできていません。
もう一つは、大企業は非正規…