古代中国の戦国時代を舞台にした宮城谷昌光さんの歴史小説「公孫龍(こうそんりょう)」(全4巻、新潮社)が完結した。権謀術数渦巻く戦乱の世を颯爽(さっそう)と渡り歩く青年の半生を、5年余りにわたる連載で描いた大河ロマン。過去の作品とは異なる視点から戦国期の実相を伝えている。
周王朝の権威が失墜した群雄割拠の世、宮廷内の陰謀で命を狙われた王子・稜(りょう)は身分を隠し、趙の国で商人・公孫龍として生きることにする……といっても彼は実在した同名の思想家とは別人。歴史長編で初めて、架空の人物を主人公に立てた。
理由は30年前に出した「孟嘗君(もうしょうくん)」にさかのぼる。戦国中期の斉の国の名宰相で、本作でも〈人も国も利害ばかりを計算し、正義を見失っている。その風潮に、ひとり敢然とさからっている〉と記される人物の生涯を描いた作品だ。
「要は弱者の味方をして、民衆にも支持された人なんですが、彼が亡くなり、秦の始皇帝が中国を統一する半世紀余りの時間がよくわからない。どの国も主導的な立場にならないなか、どう天下が回っていたのか、ずっと疑問でした」
空白期を代表する人物を求め…