「お花畑」「オワコン」とけなされて久しい戦後民主主義。一方で戦後民主主義の価値観が色濃くにじむスタジオジブリのアニメは、世代を問わず多くのファンに愛されています。なぜなのでしょうか。映画、文学やその作者らを通して「戦後」を論じてきた神戸市外国語大学の山本昭宏准教授に聞きました。
――山本さんは「戦後民主主義」などの著書で、宮崎駿監督らスタジオジブリの映画を取りあげています。
ジブリ作品には戦後民主主義的な価値観が流れ込んでいると思います。つまり、平和主義とか民主主義とか、自分が参加することでコミュニティーをつくっていくとか、国家や権力との対抗関係とか、そういったことですね。
――戦後民主主義は過去の遺物のように言われがちです。一方で、宮崎監督の映画は新作が出るたびにヒットを続けています。このギャップをどう考えればいいですか。
確かに、高度成長後の1970年代後半あたりから日本の大国化が自覚されて「ナショナリズムも悪いものではないね」となってゆき、湾岸戦争を経た90年代には「日本は国際貢献ができていない」「憲法9条は理想主義的で地に足が着いていない」とみられるようになりました。21世紀になると新自由主義的な競争原理も強調されます。「この世界はサバイバル、戦う場所なのだ」と。
しかし、先ほど述べたような戦後民主主義的な価値は、今の観客もやっぱり求めているんじゃないかなと思います。今は、昔でいう丸山真男(政治学者)のような啓蒙(けいもう)主義的な知識人は影響力を失っていますから、いかにサバイバルするかという話なら届くかもしれませんが、大上段に戦後民主主義的な価値観を振りかざしても人々には響かない。けれどもアニメという形であれば、まだ人々に刺さる。多くの人たちは、そうとは知らずに戦後民主主義的な雰囲気に引かれている。あるいは、みずからのなかにあるけれども意識はしていなかった戦後民主主義的な価値観に、宮崎アニメを通して出会い直す。そういう風に理解することはできないでしょうか。
――宮崎作品のどの辺に戦後民主主義を感じますか。
居場所を見つける物語
「天空の城ラピュタ」(19…