この春、東洋英和女学院小学部(東京都)にキャラメルブラウンの女の子が入学した。名前をANNE(アン)という。昨年12月に生まれたばかりのセラピードッグだ。
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アンは、オーストラリアン・ラブラドゥードゥルという犬種。知能が高く、毛が抜けにくいといわれる。赤毛のアンの原題「Anne of Green Gables」から名付けられた。生後4週間でセラピードッグとしての検査を受け、適性があると判断された。
休み時間になると、アンのいる部長室(校長室)に生徒が集まってくる。動物福祉の観点から、一度に触れあえるのは6人まで。
高学年の児童が下級生を並ばせ、みんなで順番を待つ。授業を訪ねて回ることもあり、希望する児童がなるべく触れ合えるようにしているという。
「お友達との会話が増えた」「けんかした後に慰めてもらった」。児童たちからは明るい声が聞こえてくる。
早起きが苦手な児童が、アンに会うために学校に早く来る。アンが頑張っているから、ピーマン嫌いを克服した。そんな影響も出始めていると、小学部の吉田太郎部長は語る。
アレルギーなどの対策をした上で、別の学校に勤務していた約20年前から動物介在教育プログラムを取り入れている。
きっかけは児童の言葉だった。
ひきこもりがちの児童の元へ、飼い犬を連れて行ったときのことだ。
「学校に犬がいたらいいのにな」
動物が子供たちにいい影響を与えるのではとプログラムを始めた。毎朝、学校に犬を連れて行き、児童たちに散歩やトイレの世話などの面倒を見させることにしたという。
セラピードッグを取り入れる学校は、増えている。
福島県会津若松市の若松聖愛幼稚園では、東日本大震災をきっかけに、2012年に「幼稚園犬」の取り組みを始めた。トイプードルのココア(11)が心の健康を支える。静岡県の御殿場西高校ではラブラドルレトリバーのアンディとカールの2頭が活躍中だ。
コロナ禍を経て、教育環境は大きく変化した。吉田部長は、幼い頃から日常的に鍛えられるコミュニケーション力を磨く機会が無くなったと話す。「不登校までいかなくても、集団の中で疲れてしまったり、心理的ダメージを抱えてしまったりしている子がいる」
アンとのふれあいを通して、思いやりの気持ちを育み、周りの人に優しくできるようになることを期待する。児童間や教職員とのコミュニケーションを活性化させる狙いもある。
文部科学省によると、年30日以上登校せず、「不登校」とされた小中学生は、2023年度に過去最多の34万6482人。11年連続で増加しており、特にコロナ禍の20年度以降に約15万人増えた。
子どもの自殺も増えている。2024年の小中高生の自殺者数は過去最多の527人(暫定値)だった。
吉田部長は言う。「どうしても学校は数値化したがりますが、大きな教育目標よりも、子どもたちの笑顔が増え、学校を楽しいと思ってもらえるだけで十分。子どもたちをあの手この手で元気にしたい。その一つの手段がたまたま犬だっただけです」