「そのシーンははっきり覚えてるんです」
遠くを見ながら、俳優の渡辺美佐子さん(92)は語った。
奈良市で1954年に撮影、公開された映画「狂宴」(関川秀雄監督)に出演している。当時は21歳だった。前年公開の「ひめゆりの塔」で映画デビューし、この年に劇団俳優座養成所を卒業している。
「狂宴」では、高校生の房子を演じた。修学旅行先で米兵に乱暴され、引きこもる。ついにはウワナベ池に身を投げる。父(東野英治郎)らが助けに来るが、間に合わなかった。
「池に浮くって難しい。すぐ沈んじゃうから」「すごく池の水が冷たいんで、近所のお宅にお風呂を沸かしていただいて、体を温めた」。断片的な記憶のなか、焼き付いた場面がある。
奈良に米軍の娯楽慰安施設が
近くには当時、米軍基地があ…