【動画】山内マリコさんと渡辺えりさんの対談=内海日和撮影

 表現の世界の第一線で活躍する「先生」との対話をエッセーを交えて深めていく、作家の山内マリコさんの連載「永遠の生徒」。今回の「先生」は劇作家で演出家、俳優の渡辺えりさん。今年古希を迎えた渡辺さんが手がけた舞台の「初期衝動的なエネルギー」に感激したという山内さんが、新作舞台「少女仮面」を控える渡辺さんに「創作力の継続性」をテーマに教えを請います。創作の原点、一人の女性としての演劇人生、年齢とともに向き合った変化、さらに山内さんが提案する新作のアイデアとは――。

Re:Ron連載「永遠の生徒 山内マリコ」第3回【対話編×渡辺えり】

 【山内】 以前から「私の恋人」「ガラスの動物園」といった、えりさん演出の舞台は観(み)ていたんですが、今年初めにえりさんが戯曲をいちから書いて演出した「りぼん」「鯨よ!私の手に乗れ」を観まして、その熱量と独創性にとても感激しました。本当に芯からのフェミニストだというのがビシビシ伝わってきて、これを観て、一気に大ファンになりました。今年はえりさんの古希記念イヤーですが、初期衝動的なエネルギーがあふれているんです。しかも盛り込まれている要素が多くて、1作に3作分くらい入っていましたね。

 【渡辺】 もう70歳なので、いつ死ぬか分からないという思いで、これでもかというくらいに入れ込んでいます。

 【山内】 両方ともすばらしかったけれど、私は特に「りぼん」が刺さりました。

 修学旅行で山形から出てきた学生たちが、横浜で戦争の記憶と邂逅(かいこう)していく不思議な展開で幕を開けます。根岸外国人墓地に眠る嬰児(えいじ)の話や「浜のメリー」さんといった事実がどんどん盛り込まれて、社会的なメッセージも感じつつ、それだけじゃない。「死」についてとても深い洞察があり、だけど歌と笑いにあふれているという、まったく観たことのない作風で。とにかくもう1回観なきゃと本多劇場に日参しました。サウンドトラックも買って、かなり聞き込んでいます。それでもまだ咀嚼(そしゃく)できないほどの奥行きがあるんです。

 【渡辺】 そう言っていただけるとうれしいです。私は割と「明るいおばさん」というイメージがあって、そういうシュールな作品を書くとはあまり思われていないようで……。

 【山内】 確かに、「ぴったんこカン・カン」(TBS系)で安住紳一郎アナとわいわいやっているイメージが強かったです(笑)。

 俳優だけでなく、戯曲も書いて演出もする演劇人だということを知らない方も多いかもしれません。テレビで拝見するにぎやかな一面とはまた別の、演劇少女がそのまま大人になったような、熱い魂を感じる舞台でした。

 【渡辺】 やっぱり人間って一色じゃないですから。色んな面から見て、皆一人ずつ違って、その中には悩みも苦しみもたくさん詰まっていますよね。キュービズムのように、それを色んな角度から同時に舞台に乗せるという手法で若いときからやっているんです。

 どの人生も複雑に絡んでいる、ということをずっと書いてきて、もう50年が経ちます。

舞台の稽古場で対談する山内マリコさん(左)と渡辺えりさん=2025年5月16日、東京都世田谷区、内海日和撮影

 【山内】 今回、「創作力の継続性」というテーマでお話をうかがいたいと思ったのですが、50年続けられたのはどうしてですか? しかも50年目にして、パンクロッカーのファーストアルバムのような熱量で。

「女や男に関係なく評価してくれた最初の劇作家だった」という唐十郎さん、「出会わなかったら演劇をやっていなかった」という沢田研二さん……記事後半では、50年の演劇人生を振り返りながら、創作力の源泉とこれからについて語り合います。

 【渡辺】 私も何でだろうと…

共有
Exit mobile version