沖縄県最北端の有人離島、伊平屋(いへや)島。「島医者」として働く、真栄田この実さん(33)は休憩中の喫茶店で島民に偶然会うと「おじいに来週の検診に来るように伝えといてね」と笑顔で声をかけた。
職場である診療所は海のすぐそばにあり、年季の入った木の看板が目印だ。診察室の奥には3台のベッドが置かれた経過観察室や処置をするためのストレッチャーがある。
ひざの関節炎で歩けなくなってしまった「おばあ」を休日の急患で治療した。後日様子を見に行くと、「あの時はありがとうねぇ~」と庭で採れた野菜をくれた。島の売店でカップラーメンを買っていたら、島民から「ちゃんと食べてる?」と心配されることも。「海の美しさ、人の温かさが心地いい」
横浜市出身で都内の大学を卒業。沖縄との縁は無かったが、総合診療の力をつけようと、初期研修で沖縄県立中部病院に進んだ。2年目の研修で訪れた伊平屋島に2020年4月に赴任。伊平屋村役場職員の男性と出会い、赴任から約半年後に結婚。いまは3歳と1歳の子どもを育てながら働く。
橋でつながる野甫(のほ)島と合わせた伊平屋村の住民は約1170人。医師は真栄田さん一人だけだ。平日の午前中は診療所で15~20人ほどの外来患者を診る。午後は高齢者施設・高齢者宅の訪問診療、保健所の検診、予防接種、学校医としての業務など、島のあらゆる仕事を一手に引き受ける。20年12月に新型コロナで島全体が「クラスター」と認定された際は、不眠不休で対応した。
急な病気や事故によるけがで、夜間や休日に対応することも月に20回ほどある。代診の医師に来てもらうお盆休みを除けば、島から離れることはない。島医者は通常2~3年で交代することが多いが、真栄田さんは島に残る。「90歳のおばあが、100歳になるまで診ていたい」
「島で育てようよ」と言ってくれた
島医者の熱意とヘリ搬送で支えられている離島医療だが、「限界」も浮かび上がる。
台風の接近などで悪天候にな…