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【ニュートンから】天文を愛した文学者たち(3)

写真・図版
天文を愛した文学者たち

三人目の文学者は,明治から昭和にかけて活躍した詩人であり,小説家の島崎藤村(1872~1943)だ。藤村は,現在の岐阜県中津川市馬籠にあたる筑摩県馬籠村の旧家に生まれた。馬籠村は自然が豊かな場所で,幼少期の藤村も自然に親しんだことだろう。

自然美を表現する詩を残した

 藤村は勉学のために9歳で家族とはなれ,東京で暮らすことになった。生活環境が大きく変化したこともあり,故郷の自然や家族を思いだすことも多かったはずだ。

 藤村は1893年,20歳のときに,文芸雑誌である「文学界」に参加し詩や随筆を発表するようになる。藤村は,静寂の中の自然美を詠んだ俳人の松尾芭蕉(1644~1694)や,自然美をたたえる詩を残したイギリスの詩人ウィリアム・ワーズワース(1770~1850)の影響を受けた。藤村自身も,自然美を詠んだ作品をいくつか残している。この作風は,幼少期になれ親しんだ自然とはなれた経験が影響しているともいわれる。

 藤村は天文学にはそれほど関心がなかったようだが,星をよく観察していたことをうかがわせる。第一詩集『若菜集』をはじめとする初期の詩集には,花,山などとともに,夜空や星などの言葉がいくつも出てくる。夜空や星が藤村にとって大切な自然の一部であったにちがいない。

 藤村は,織姫や彦星といった…

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