グラウンドに並べられた石、石、石。同じ形のものは一つもなく、大きさもバラバラ。なかには数トンにもなるものも。
よく見ると、数字とカタカナを組み合わせた暗号のような目印が、すべての石についていた。耳を澄ませば、石にのみを打ち付ける「カーン、カーン」という音。見上げると、巨大なクレーンがそびえ、その先に小さな天守がたっている。
ここは「石垣の名城」として知られる丸亀城(香川県丸亀市)。2018年7月の西日本豪雨やその後の台風などの影響で、南西部の石垣が崩落した。石を元通りに積み上げる工事が昨年8月から続いている。
2018年の西日本豪雨の影響などで、石垣が崩落した丸亀城。回収された石の数は1万を超え、24年8月からようやく積み上げ工事が始まりました。「石垣の名城」を元の姿に戻すため、石と向き合う人々を訪ねます。
石積みの中心となるのが、山形県や千葉県など、全国各地から集まった10人ほどの職人たち。現場を束ねるリーダー的な存在が、山梨県で石工事業などを営む「石組」の一人親方、遅澤晴永(はるなが)さん(62)だ。
19年11月、丸亀城の復旧工事に取り組む大手ゼネコンの鹿島から遅澤さんに声がかかった。地元の甲府城(山梨県)の石垣改修や東日本大震災で被災した白河小峰城(福島県)の石垣復旧に関わった経験を買われた。
コケの位置もヒントに
はじめに取り組んだのは、もともと石があった場所を特定することだった。丸亀城跡は国の史跡のため、元通りに復旧する必要がある。しかし、崩落現場から回収した石は、1万1746個。そのうち、約6千個の場所が分からなかった。
「できの悪いパズルだった」と遅澤さんは表現する。
重要なのは一見同じように見…