Smiley face
写真・図版
事故直後の東京電力福島第一原発。中央右から1、2、3、4号機=2011年3月、福島県大熊町、株式会社エア・フォート・サービス撮影

 取り返しがつかない事態を招いた東京電力福島第一原発事故の責任は、個人に問えるのか――。強制起訴から9年。旧経営陣2人の無罪判決が確定する。電力会社が事故の重みに向き合っているかへの懸念が残るなか、政府は「原発回帰」を進めている。

 巨大津波が襲来する「現実的な可能性」の認識が旧経営陣にあったかどうか。改めて高い立証ハードルを課した最高裁の結論は、地裁、高裁に続く3度目の無罪だった。

  • 東電判決に残る消化不良感 「原発を漫然と運転」浮かび上がった姿勢
  • 福島原発事故、東電元幹部2人の無罪が確定へ 最高裁が上告棄却

 業務上過失致死傷罪は「果たすべき義務を怠った結果、誰かを死傷させた」ことを罰する。検察官役の指定弁護士は①旧経営陣は巨大津波を予想できた②適切な対策を怠ったために多くの犠牲につながった、と立証する必要があった。

 ②では、事故前でも考えつく確実な対策があったかが焦点だった。指定弁護士は、防潮堤設置や浸水を防ぐ工事など様々な対策のほか、運転の停止によって最終的に事故を防げた、と訴えた。

 しかし、地裁と高裁は判決で、浸水防止工事などが事故前に間に合ったとは言えないとし、事故を防ぐには「原発を止めるしかなかった」と判断した。

 この考えを最高裁も踏襲。弁護士出身の草野耕一判事は補足意見で、「運転停止以外で、事故を回避できたとの立証はない」と述べた。

 首都圏に電気を供給する福島第一原発を止めるべきだったとの重大な判断をするには、巨大津波が起きるという「現実的な可能性」を被告らが認識していた必要がある――。有罪の結論を得るための高いハードルは、最高裁でも維持された。

 2人の被告には、「最大15.7メートル」とする津波の試算が震災前に伝わっていた。しかし最高裁は、試算の前提となった国の長期評価は信頼度が低かったと指摘。2人を有罪にするだけの「現実的な可能性」の認識を裏付けるものではないとして、無罪とした地裁と高裁の判断を「法的な評価を含めて正当だ」と全面的に追認した。

 指定弁護士側は「原発事故は起きれば取り返しがつかず、万が一にも起こしてはならない」「津波の正確な予測は不可能である以上、『現実的な可能性』まで要求して誰の責任も問えなくなるのはおかしい」と判決を批判し、有罪を求めてきた。しかし、裁判所の論理は最後まで覆らなかった。

 13ページある最高裁の決定…

共有