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 大ピラミッド建造に使われた200万~300万個もの大量の石材は,傾斜路を設けてピラミッドの上部まで運んだという説が一般的だ。傾斜路はすべてが石でできているのではなく,石積みで両側面をつくり,その間を砂などで埋めて斜面をつくったと考えられ,「簡単につくってこわせるものでした」(河江教授)。こうした傾斜路が使われた跡は,ギザの台地にもいくつかみつかっている。

 傾斜路の形状は大きく分けると直線型,らせん型,ジグザグ型の3種類がある。高さ147メートルの大ピラミッドにはどれが使われたのか。ほとんどの石材はピラミッドから南に300メートルほどはなれた石切り場から運ばれたと考えられており,直線傾斜路でピラミッドの基部まで石材を運ぶのは簡単だ。これを示す傾斜路の跡もみつかっている。ただ,石切り場からピラミッドまでの距離は近いため,傾斜路の角度を10°とすると56メートル程度の高さまでしか石材を運べない。一方,らせん傾斜路は傾斜路の角度を大きくせずに石材を高い位置まで運べるが,ピラミッドの角の稜線がまっすぐにならないのではないかという指摘もある。

 いくつかある傾斜路の形状の説の中で最も有力なものは,ピラミッド研究の第一人者であるマーク・レーナ-博士の説だ。レーナ-博士の説は,ギザ台地に残る傾斜路跡などの証拠と合致する。作業面積がせまい中で頂上部分への石を運ぶという最後にして最大の難関を乗り越えられるため,現在のところ最も有望だ。

 この説によると,まず南の石切場から巨大な直線傾斜路をもちいて石材を運び,高さ37メートル付近までピラミッドを建てる。そこから傾斜路をらせん型に変えて,斜面の外側を上へ進む。角を曲がるごとに少しずつ傾斜路の角度を高くし,最後は約18°の傾斜路で17段分の石を積む。「18°は急すぎる印象もありますが,第6王朝時代のメレルカ宰相の墓には4.7トンの石棺のふたを運んだ18.8°の傾斜路が残されています。18°の傾斜路で石材を運ぶのは不可能ではありません」(河江教授)。

写真・図版
クフ王の大ピラミッドの建築方法に関するアメリカの考古学者マーク・レーナー博士の説をイラストで示した。レーナー博士は,直線型の傾斜路とらせん型の傾斜路を組み合わせることで石材が積み上げられたと推定した。直線型の傾斜路を使って高さ37メートル付近まで石材を積み上げたのちに,傾斜路をらせん型に変えて,徐々に石材を積んでいく。この方法は,傾斜路の建造に必要な石材の量を大きく減らすことができるうえに,構造的にも安定しているという。さらに,クフ王の大ピラミッドの周囲の遺跡の跡とも合致するという。作画資料:マーク・レーナー著『図説 ピラミッド大百科』205ページ

ピラミッドを建造した人々

 かつて,秘宝へのあこがれが古代エジプトの発掘ブームをけん引したことがある。現在の考古学では当時の人たちがどのような生活をしていたかを調べ,古代の社会全体を理解しようという方向へトレンドがシフトしている。これまで紹介したように,巨大ピラミッドの建造は神秘的なものではなく,驚嘆すべき古代エジプト人の奮闘や知恵によってなしとげられた。古代エジプト人を知らずに,ピラミッドの謎を解くことはできない。

 では,ピラミッドを建てた古…

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