大阪の女子高に通っていた森由紀子さん(49)。
高校2年生の時にイベントを企画したが、教師から許可が下りなかった。
「いやいや、時間ないし」「みんなが興味あるわけじゃないし」
思いを受け止めるのではなく、受け流すような態度に納得がいかなかった。
両親との仲はよかったが、時折、否定的な言葉を使うのが嫌だった。
今思えば、どちらも取るに足りないことだ。
それでも当時は「どうして大人って、ああなんだろう」と、憤っていた。
次第にあらゆることが嫌になり、「木や虫になれば、こんなに悩まなくていいのかな」と思うように。
そんな時、国語の授業で習ったのが、谷川俊太郎さんの詩「かなしみ」だった。
◇
あの青い空の波の音が聞えるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまったらしい
透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計に悲しくなってしまった
◇
大学を卒業したばかりの先生が、よく通るきれいな声で読み上げた詩。
その声と組み合わさった詩の響きに、雷に打たれたような衝撃を受けた。
空と海が重なる水平線の向こうに、遺失物係の人が立っている景色が思い浮かぶ。
落とし物って何? どうして見つからないの?
当時は、青年期の喪失感をうたっているとは解釈できなかったが、何かが心に響いた。
谷川さんの「二十億光年の孤独」を購入して読み、気になった詩のページに付箋(ふせん)を貼った。
そして、谷川さんに手紙を書いた。
大人に対する怒りを書き連ね、こんな質問をした。
「人間に生まれて良かったですか?」
誰かに自分の気持ちを聞いてもらいたい。
こんな詩を書く谷川さんなら、きっと何か答えをくれる。
そんな思いで手紙を投函(とうかん)した。
差出人は「谷川俊太郎」
しばらくして、自宅に1枚のはがきが届いた。
62円切手の横に「森由紀子…