東京電力柏崎刈羽原発が立地する新潟県柏崎市で11月、市長選が行われた。原発の是非をめぐり、半世紀余りにわたり市を二分する論争が続いてきた土地だが、今回は過去の市長選とは、かなり様相が異なるものとなった。
ああ、それを言っては……。ペンを持つ手が一瞬、止まった。
11月10日、新潟県柏崎市長選に立候補した阿部由美子氏の第一声。約30人の支援者を前に、立候補の決意を述べた後、こう続けたのだった。
「市長選に出ると思って生きてきていないので、今、柏崎市で山積みになっている問題をどうするんだ、と言われても正直わかりません」
喫茶店を営む傍ら、反原発団体のメンバーとして活動してきた阿部氏が立候補を表明したのは、告示4日前の11月6日だった。
この選挙では、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に「条件付き容認」を掲げる現職の桜井雅浩氏が8月末、3選を目指す考えを正式に表明していた。一方、桜井氏に対抗しようと5月から断続的に協議を続けてきた反原発団体や共産、社民両党などは9月24日に「統一候補」の擁立を断念。その後、独自候補を立てようと模索した共産党も10月30日に見送りを決めていた。
協議の参加者によると、「統一候補」断念の背景には、元参院議員で弁護士の近藤正道氏を擁立しながら大差で敗れた2020年の前回選挙を踏まえ、「また大敗したら、ますます桜井市長の立場を強くしてしまう。それなら無投票にした方が良い」との判断があったという。
しかし、阿部氏ら反原発団体の一部は「再稼働反対の民意を示す場がなくなる」として無投票は回避すべきだと考えた。関係者によると、阿部氏は「誰も出ないならば、自分が出るしかない」との思いを親しい「同志」に伝えていたという。
阿部氏は桜井氏と同じ62歳。小学校から高校まで同じ学校で過ごし、中学では一緒に生徒会の役員を務めた。
桜井氏が3~4月に市内11…