(28日、春季東京都高校野球大会決勝 帝京8―5東海大菅生)
帝京の金田優哉監督は前日、移動中のバスで選手にこう語りかけた。
「夏の決勝をイメージしよう。負けたら引退、勝ったら甲子園だ」。
- 選手が対談で振り返るあの一戦 常総学院×日本航空石川(前編)
この日、九回裏が始まった時点でスコアは4―5。土壇場で、思いは結実する。
先頭の2番、西崎桔平が中前安打で出塁。送りバントも考えられる場面だが、金田監督の選択は強行策だった。
「冬場はスイングを磨いてきた。やってきたことを貫こう、と」
死球と丹羽心吾の左前適時打で同点とし、なお無死一、二塁の好機で5番富浜琉心に打席が回ってきた。
ここまで4打数無安打2三振。2球目、甘く入った変化球を完璧に捉えた。「やってやった」。打球は左翼席に飛び込んだ。サヨナラ3ラン。2試合連続のアーチで派手に試合を決め、春の都大会2連覇を果たした。
長い冬だった。昨秋の都大会は1次予選でライバルの二松学舎大付に0―8。七回コールドで完敗した。
翌春の低反発バット移行も見据え、金田監督が示した方針は「うちは打撃力でいこう」。今のチームにはスイング力のある選手がそろっていることもあり、攻撃力に振り切る道を選んだ。試合形式の打撃練習はほとんどせず、数のこなせるフリー打撃を繰り返した。
成果は今春の都大会で表れた。1~3回戦で2桁得点を挙げ、決勝では劣勢をひっくり返した。昨秋は控えだった富浜は今大会で3本塁打。象徴的な活躍を見せた。
ただ、チームに浮かれた様子はない。試合後、金田監督と主将の西崎は同じ言葉を口にした。
「夏に甲子園に出られなければ意味がない」
昨春は都大会を10年ぶりに制したが、夏は5回戦で岩倉に屈した。春夏計3度の甲子園優勝を誇る強豪も2011年夏以降は出場から遠ざかり、その難しさを思い知らされる形になった。
西崎は力強く言った。
「歴代の先輩が『強い帝京』をつくってくれた。強い帝京を取り戻す気持ちでやっている。悪いところをつぶして、関東大会に臨みたい」(大宮慎次朗)