■池井戸潤が撮る 日本の工場
「半沢直樹」シリーズなどでおなじみの作家、池井戸潤さんが仕事の現場を訪ねる朝日新聞土曜別刷り「be」の企画の特別編です。今回は建て替えられる帝国劇場(東京都千代田区)を訪ねました。舞台を見ているだけではうかがい知れない、劇場の深奥部にカメラとペンで迫ります。
写真を見て、これが何であるかわかる人は、関係者を除いてほとんどいないだろう。
ここは正真正銘、〝奈落〟の底である。あの、「奈落に落ちる」の奈落だ。
東京は丸の内にある帝国劇場。その舞台下に、深さ24メートルもの奈落があると話に聞いたのはいつのことであったろうか。
日本中の劇場を探しても、これほど深い奈落はどこにもない。まさに日本最大級である。だが、帝国劇場の――いや、帝国劇場を含む帝劇ビルと国際ビルの建て替えとともに、この奈落も間もなく取り壊される運命にあるのだ。
ご存知(ぞんじ)かどうか、いまの帝国劇場は実は2代目である。
1911年開場の初代帝国劇場が64年に休館、解体され、現帝国劇場はその2年後の66年9月に完成した。
私たちが目にしていた艶(あで)やかで華やかな舞台は、このビルの1階と2階部分でしかなかったのだが、実は帝国劇場全体の構造は、地上9階、地下6階だ。
その最下層がまさにこの写真…