100年をたどる旅~未来のための近現代史~⑤戦争と民意

二つの世界大戦の「戦間期」に着目し、100年前と現代との類似性をよみとく連載の第5回。
今回は「戦争」と「民意」のあやうい関係性に光を当てる。

 国民感情の高まりは、戦争を止めることもあれば、逆に国を追い詰めて外交の選択肢を狭めることもある。内政と外交上の利益は必ずしも一致しない。政治指導者が自らの存在感を示すため、他国への嫌悪に沸く世論に同調し、時にあおることも古今東西珍しくない。

 2022年8月、中国は台湾周辺で軍事演習を行い、日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルを撃ち込んだ。ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発してのことだった。

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中国の共産党外交部門トップの王毅(ワン・イー)政治局員(右)と会談する林芳正外相=2023年7月14日、インドネシア・ジャカルタ、外務省提供

足踏みする対中外交 「関係悪化の時こそ必要」だが…

 「関係悪化の時こそ懸念を率直に伝え、相手の真意をただす必要がある」と中国との直接対話を探っていた首相官邸幹部だが、自民党保守派の動向を気にかけ、周囲に漏らした。「日本の外相が『中国訪問の招待を受けた』と言っただけで党内から批判が噴き出し、訪中が困難になり、相手も日本に来にくくなった。国内世論に気兼ねして外交の手足を縛るのはまずい」

 実際、党内には、21年11月に外相に就任した林芳正氏(現・官房長官)を「媚中派(びちゅうは)」などと揶揄(やゆ)する声があり、中国・王毅外相からの訪中招待が報じられると、「間違ったメッセージを海外に出すことになる」との反発が出た。

 対中外交は足踏みし、林氏の訪中が実現したのは就任から約1年半後の昨年4月。外相としては3年3カ月ぶりの訪問だ。米国の閣僚が相次ぎ北京入りする一方で、その後、北京を訪れた日本の閣僚は、7月中旬に訪問した武見敬三厚生労働相ただ一人だ。

 政治家の振る舞いは世論と無関係ではない。中国の活発な軍事活動などで日本国民の対中感情は急速に悪化。内閣府が昨年実施した「外交に関する世論調査」では、中国に「親しみを感じない」は86・7%で、調査方法は異なるが、1978年の25・6%の3倍強に膨らんだ。

 日本国内での空気の変化に、米共和党系シンクタンクの研究員も「日本が対中強硬で米と足並みをそろえるのは歓迎だ」としつつ、「いざ紛争が起きれば、日本が巻き込まれるのに、数年間での日本の政治家や世論の対中強硬論の高まりには驚かされる」と語る。

満州事変後、ポピュリズムに走った松岡洋右

 1931年に起きた満州事変の前後でも、世論が影を落としていた。

 事変の3年前、元外相で終戦…

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