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「新潟弁法律教室」を開いている不幸予防士こと渋井保之さん=2024年6月17日午前10時11分、新潟市江南区、茂木克信撮影
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 渋井保之さん(78)は「不幸予防士」を名乗り、新潟弁を交えた法律教室を新潟市内を中心に開いている。

 遺言書をテーマにした教室でのこと。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、危急時遺言…。それぞれの要件や手続きをざっと説明した後、言った。

 「やぼこきってわかる?」。中高年の受講生たちに尋ねた。「ルールを知らないのを恥じることなく、自己主張を続ける人のこと。知っていてもそれに飽き足らず、欲をかく人のこと」

 新潟弁の解説に続き、本題に入った。「遺言書を使えば、家庭裁判所に来る必要はないよね。それなのに来るということは、相続人の中にやぼこきが一人以上いるということです」

 20年前まで、裁判所で裁判の進行を支える書記官として30年余、家庭や親族間の家事事件をはじめ、民事、刑事、少年の各事件に触れた。

 「家裁の遺産分割の調停では、ののしり合いやつかみ合いすらありました。欲をかかず、へまをしない。そうすれば、幸せな人生になる確率が上がる。それを伝えるのが『不幸予防士』です」

 正しいと思ったことは言わずにいられない。新潟県立新潟高校を卒業後、2年半で民間6社を渡り歩いた。21歳になる手前、新聞で「裁判所の職員募集」の広告を見て受験し、採用された。

 振り出しは新潟簡裁。28歳で書記官になると、新潟家裁や同地裁、東京高裁、最高裁などで職務に就いた。「上司に当たる裁判官には、10年早いと頭ごなしに言う人はいなかった。職場の空気が気質に合いました」

 58歳で早期退職し、セカンドキャリアとして61歳のときに始めたのが現在の活動だった。

 「失敗する人を一人でも減らし、裁判所を暇にする。それがやりがいであり、生きがいです」(茂木克信)

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