1957年から、わずか5年弱の期間しか存在しなかったものの、高い技術力とチャレンジングな精神で後に高い評価を受けた腕時計ブランド「タカノ」が復活した。日本の独立時計師・浅岡肇さんが代表を務める会社がライセンス契約によって生産を手がける。5月末に発表された新体制での初商品は、厳格な検定に合格した高い精度を備える「シャトーヌーベル・クロノメーター」だ。「幻の国産時計」の針が、60年超の時間を経て再び動き出した。
タカノは、もともと置き時計などを作っていた名古屋市の高野精密工業が57年9月、自社ブランドとして初の腕時計の販売を始めた。セイコー、シチズン、オリエントを追う4番目の国産腕時計メーカーの誕生だった。だが、59年に伊勢湾台風により本社工場が壊滅的な被害に遭うと、それによる経営危機を回避できず、62年4月にリコー傘下になり、ブランドの歴史に幕を下ろした。
タカノブランド復活の先頭に立つ浅岡さんは、その後の65年生まれ。東京芸大卒業後にプロダクトデザイナーになったが、独学で時計製造を学び、2009年には複雑機構のトゥールビヨンを搭載した国産初の腕時計を製作するなど、日本を代表する時計師に。世界でも数少ない、時計製作の全工程を担える人物だ。自身の名を冠した高級時計ブランドのハジメ・アサオカや、ビンテージ調でデザインを手がけているクロノトウキョウは新作を発表するたびに購入希望者が殺到している。
「もしタカノが存続していたら」 遺志継ぐ決意で…
浅岡さんは、タカノが60年…