(19日、第106回全国高校野球選手権大会準々決勝 大社2―8神村学園)
1点を追う六回裏、2死三塁の好機で大社の高橋翔和(とわ)選手(3年)に打順が回ってきた。三塁上には双子の兄、高橋蒼空(そら)選手(同)がいた。
同点だった五回表無死一、二塁、内野ゴロで併殺を狙った翔和選手の一塁への送球がそれ、走者に生還を許し1点を勝ち越されていた。
「自分が打って、チームを勢いづけたい。蒼空をかえして失敗を取り返す」。直球を狙った。ところが相手投手は、徹底してスライダーを投げてきた。「いつか直球が来る」。徐々に不利になるカウント。次こそ、と思って振ったバットはスライダーに空を切り、兄の生還はならなかった。
兄弟は、ともに約3千グラムで生まれたが、長じて兄は身長175センチ、一方、弟は165センチとやや小柄に育った。甲子園をめざし、そろって大社に進学した。
だが入学してまもなく、翔和選手は左手を骨折。2年生になったばかりのころには、蒼空選手の頭に打球が当たって入院し、長く野球ができなかった。秋になると翔和選手が腰を疲労骨折。3年生になり、やっとそろって野球ができるかという時に、蒼空選手の顔に練習中の球が直撃。場所が少し下だったら「失明したかもしれない」という大けがだった。
手術を経て、なんとか今夏の島根大会に間に合った。初めて2人一緒に公式戦に出場し、たどり着いた聖地・甲子園。この日、蒼空選手は二塁打を含む4打数2安打。翔和選手は、相手打線の速い打球を何度も華麗にさばいた。
試合後、「けがに苦しんだが、最後にレギュラーになって甲子園の舞台に立てて幸せ」と蒼空選手。翔和選手は「甲子園でベスト8以上をチームで目標に立て、それを達成した。指導者になって、この経験を伝えたい」と話した。(中川史)