かさ上げ地に広がる空き地や、埋まらない高台の宅地――。東日本大震災の被災地では、巨額の国費を投じた造成地が思うように活用されない地域もある。42市町村長と3県の知事に今後に生かすべき教訓を聞いた。

  • 政府の復興支援、被災3県の首長7割「必要」 縮小方針の来春以降も

 仙台駅から車で1時間半。太平洋に突き出す、宮城県の牡鹿半島は14年前、津波で壊滅的な被害を受けた。半島にある旧牡鹿町(石巻市)の死者(関連死含む)・行方不明者は計119人に上り、リアス海岸に点在する集落の多くの家屋が流された。

 被災地の住宅再建に活用されたのが、内陸部や高台に宅地をつくり集団で移る「防災集団移転促進事業(防集)」だった。特例的に国が原則全額(5519億円)を負担。石巻市は約956億円を投じ、2017年度までに46地区65団地を造成した。ただ半島の人口(旧牡鹿町)は震災前の4割超の1978人にとどまる。市の内陸部や近くの仙台市などに移転した人も多い。

記事の後半では、被災した42市町村長と3県の知事による回答の詳細を掲載しています。

県が検討した「集約」は実現せず

 半島中部東側の大谷川浜(おおやがわはま)地区では、14区画分の宅地を造成。住民の意向を確認後、事業を行うため、原則、空きは出ない計画だったが、実際に入居したのは10区画にとどまり、4区画に空きが出た。元区長の阿部政悦さん(65)によると、入居辞退は高齢者に多かった。「病院や商店から遠く、年々体が弱る高齢者にとってここは厳しい環境」と話す。その後、死亡や転居で空き家が2戸生まれた。

震災後、大谷川浜地区では防潮堤(右)を整備。住民は高台(左)に移り住んだ=2025年1月31日、宮城県石巻市、吉村美耶撮影

 石巻市が防集で造成した宅地のうち、市街地では全1476区画が埋まっている。一方、牡鹿半島(同市分)では407区画中、34区画に空きがある。

 こうした事態は宮城県の懸念が的中した形だ。県は震災後、牡鹿半島で複数集落の集約を検討した。大谷川浜地区で再建した元牡鹿町長の木村冨士男さん(87)によると、市幹部から「集落をまとめたい」と言われ、「理想かもしれないが、現実は難しい」と応じた。木村さんは「数十軒、100軒が集まれる土地はない」と話す。結局、住民の慎重論が強く、集約は具体化しなかった。

 斎藤正美市長は「少子高齢化が進む今後のまちづくりで集約的なまちづくりは行政コストの点から大変重要だが、行政主体で集約的まちづくりを行った場合、住民不在となり、住民の満足度が低くなる」とジレンマを語る。

6割超が空き地の地区も

 津波で浸水した地区をかさ上げする「土地区画整理事業」(区画整理)には、3県で4628億円が使われた。「奇跡の一本松」で有名な岩手県陸前高田市では約1630億円をかけ、被災地最大の約300ヘクタールを造成したが、宅地の活用率(23年12月、国交省)は同市今泉、高田地区で各約35%、約41%。

 市内は最大17メートルの津波に襲われ、死者・行方不明者は1800人を超える。地権者は市外や県外に点在し、事業の前提となる同意を得るのに4年を要したという。

 今泉地区では海抜5.5~12.5メートルにかさ上げし、約112ヘクタールを整備した。しかし、宅地全体の6割以上が空き地で、「売り地」の看板が所々に立ち、雑草が生い茂る。

空き地が目立つ今泉地区=2025年2月4日午前11時41分、岩手県陸前高田市、松尾葉奈撮影

 区長の及川和雄さん(75)によると、震災前の約600世帯中、地区に戻ったのは約250世帯。宅地の引き渡しが終わったのが約4年前で、「早く落ち着きたいと区外で再建する人が多かった」と話す。亡くなる高齢者もいて、空き家も出始めているという。及川さんは「市外へ出た若い世代も多い。これから空き家が増えるのでは」と心配する。

 3県全体でも活用率は約7割にとどまる。住民の意向を把握して移転先に宅地を造る防集に比べ、かさ上げ後の土地利用が十分に検討されず実施された面があるほか、造成完了までの期間が防集の平均4年3カ月より、さらに2年半以上長いことも響いたとみられる。

 今回のアンケートで、防集や区画整理で造成した宅地に空きが出た理由を複数回答で聞いたところ、最も多かったのが「事業が長期化し、住民の意向が変化」で10人。「若い世代の転出」と「住民が資金を用意できない」がそれぞれ5人と続いた。陸前高田市の佐々木拓市長はそれらに加え、「権利者の死亡」などを理由に挙げた。

東日本大震災の被災地 造成地の活用率

被災地首長、「集約」への考えは……?

 東日本大震災では、被災者の宅地を造成する両事業は地元自治体の負担ゼロで行われた。しかし、事業が必要以上に大きくなった側面もあるとの指摘もあり、アンケートでは、各首長に負担ゼロの評価を尋ねた。

 回答は「良かった」が44人中37人と、8割を超え、「どちらかと言えば良かった」が7人で、全員が肯定的だった。「被災地域は財政基盤が弱い。国費措置で、復旧・復興の加速につながった」(岩手県)や「負担を求められた場合、財政力の乏しい自治体は復興を進められず、自治体によって復興の進捗(しんちょく)に大きな差が発生した」(同県大槌町)、「被災地域の安全性が向上し、地域の再生に向けた大きな一歩となった」(宮城県亘理町)などの理由が挙げられた。

 一方で、「今後の維持管理コストは大きな課題」(福島県楢葉町)との危惧もある。また、「国費は国民のお金で、身の丈を意識して事業を進めた。『国から予算が出るから何でもやってしまえ』という態度は厳に慎まねばならない」(宮城県女川町)との声もあった。

 能登半島地震からの復興・復旧について、財務省は昨年4月、「集約的なまちづくり、インフラ整備」の必要性を示した。一般論として是非を聞くと、「必要」が44人中14人(32%)、「どちらかと言えば必要」が15人(34%)で、「どちらとも言えない」が15人(34%)だった。

 「インフラは将来、今よりも少ない人口で健全に維持・管理していくことが必要。地域との合意を前提とし、集約的なまちづくりやインフラの統廃合が不可欠」(宮城県)、「人口減少等の社会情勢をふまえ、身の丈に合ったまちづくりやインフラ整備をする」(福島県相馬市)などの理由が多かったが、「地域ごとに事情が異なるため現実的に難しい」(宮城県利府町)との見方もあった。

 今後の大災害に生かす教訓を自由記述で聞いたところ、「実情にあった適正規模の復興計画を事前に策定し、迅速かつ効果的な復興を進められるようにする」(福島県いわき市)、「住民の意見を取り入れた事前復興まちづくり計画の策定」(岩手県釜石市)など、平時から復興のあり方を計画する「事前復興」の必要性を訴える意見が相次いだ。

 被災自治体の政治・行政に詳しい東北大学・河村和徳准教授(政治学)の話 東日本大震災では被災者の住まい再建や町の再整備に必要な防災集団移転や土地区画整理、防潮堤建設などが自治体負担なしで進められ、被災自治体にとって総じて評価の高い復興になったことがアンケート結果からわかる。ただ「大盤振る舞い」の側面があったことは否めず、宅地が余るなど一部で不採算化する事業も出た。

 深刻なのは、こうした手法で整備したインフラの維持・更新だ。埼玉県八潮市の下水道による道路陥没事故は課題を広く知らしめた。人口減で税収が減る東北の被災地にとって、将来世代の重い負担となるだろう。

 今後は人口減を見据え、インフラを集約するダウンサイジング型の復興が必要だ。アンケートで多くの首長が「集約型」を必要としたのは、問題意識が共有されていることを裏付ける。将来のインフラ維持・更新を踏まえた復興計画を、防災庁が担うのも一案。将来のまちのあり方について、普段から住民と行政が意見交換を重ねる必要がある。

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