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 東京都高校吹奏楽コンクール(都高校吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)が10日、府中の森芸術劇場(府中市)で始まった。小学生から職場・一般まで、都の五つの部門別大会のひとつで、この日はA組(55人以下)と東日本組(30人以下)の計38団体が演奏し、計14団体が金賞に輝いた。A組の4校(東海大高輪台、駒沢大学、富士森、東海大菅生)が、9月21日に開かれる都大会出場を決めた。

 都大会には届かなくても、会場には参加団体それぞれの「ドラマ」があふれていました。ホルンのソロが光った広尾学園高校の「吹奏楽の甲子園」への歩みを取材しました。

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ホルンのソロを奏でた野島康暉さん(中央)=2025年8月10日、東京都府中市の府中の森芸術劇場、加治隼人撮影

普段は裏方のホルン 奏でた和のメロディー

 曲間の静寂に鈴の音が響き渡り、しの笛のような旋律が和の雰囲気をもり立てる。

 広尾学園高校吹奏楽部は自由曲で「Mont Fuji(富士山) ~北斎の版画に触発されて~」を演奏した。ホルン担当の野島康暉さん(2年)は、緊張で震える手をおさえながら、この曲の「顔」となる和のメロディーを力強く奏でた。

 葛飾北斎の版画「冨嶽三十六景」に着想を得て作られた楽曲で、場面ごとに多彩な表情を見せる。中間部で織りなす情感あふれる旋律や、終盤に向けてのダイナミックな展開が印象的な人気曲だ。

 その要となるのがホルン。普段は裏方役が多いが、この曲ではホルンの奏でるフレーズが起点となり、他の楽器のパートに派生していくなど、曲全体の印象を左右する。

 野島さんがホルンを始めたのは中学から。「金管とも木管とも違う異世界に誘うような音色や独特の立ち回り」に魅力を感じ、「時間さえあれば」自主練習に明け暮れた。

 昨夏のコンクール後からは、音楽教室で個人レッスンも受け始めた。顧問の中村匠先生(49)は「歌心があり、音色に深みがある」と信頼を寄せ、バンド全体の演奏を聴きながら技術的な助言をする「音楽リーダー」を任せた。

答えの見えなかったソロの表現 「完璧じゃないなら…」

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音楽室で合奏練習に励む部員ら=2025年8月8日、東京都港区の広尾学園高校、加治隼人撮影

 だが、野島さんは曲の見せ場…

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