実力を競って火花を散らす通常のコンクールとは、ずいぶん趣が異なる。広島市で今月開かれた第2回ひろしま国際指揮者コンクール(ひろしま国際平和文化祭実行委員会、中国新聞社主催)は、勝ち負けも国境も超え、出場者同士の友情を育み、音楽家として生きることに対する深い思考をそれぞれに促す無二の機会となった。
「コンクールって普通、自分の出番が終わったら帰っちゃうんだけど、これは予想外でした」
コンクールの創設に携わり、プロデューサーとして現場を奔走した指揮者の下野竜也はほっとした表情で振り返った。本選に残れなかった出場者たちも、表彰式後の打ち上げに加わり、皆で意見交換を続けていた。前回の優勝者、大井駿(31)の姿も。「同じ曲をいろんな解釈や個性のもとで聴くのは、本当に勉強になるんです」
すでに別の国際コンクールで入賞を重ね、国際的な現場で活躍を始めている出場者もおり、全体としてレベルは高い。指揮者の沼尻竜典、バイオリニストの荒井英治、作曲家の細川俊夫、音楽評論家の片山杜秀ら、さまざまな分野の第一人者が審査にあたり、予定時間を超えて議論を尽くした。にもかかわらず、審査委員長を務めた広島交響楽団音楽監督のクリスティアン・アルミンクは「出場者たちがこんなにリラックスし、互いに打ち解けているコンクールは世界的にも珍しい」と語る。
その理由はふたつある。コンクールが始まる前に下野によるマスタークラスが開かれ、全員がベートーベンの「エグモント」序曲を素材にディスカッションをしていたこと。それに加え、出場者全員が8月6日の平和記念式典に参加し、原爆資料館を訪れ、被爆者の話に耳を傾けるという共通体験をしたこと。これらはすべてコンクール参加の必須条件だった。
3位に入賞した台湾人のゾウ…