その森は美しく、そして少し不思議な光景が広がっていた。コナラやクリなど広葉樹の里山なのに、ササや草が生えておらず、斜面を遠くまで見通せる。広大な森を丁寧に下草刈りをしたかのようだ。
「シカの食害です」。案内してくれた特定NPO法人麻生里山センターの海老沢秀夫センター長(71)が話した。木の幹には表皮をシカにかじられた跡があり、地面にはふんが確認できた。
ここは滋賀県高島市にある自然共生サイト「太陽生命くつきの森林(もり)」。高島市が保有する約150ヘクタールの森林「くつきの森」のうち21・1ヘクタールを、2007年から太陽生命保険(本社・東京)が借り受け、森林の保全と整備を続けている。普段の管理は同社と協定を結ぶ麻生里山センターが担っている。
自然共生サイトは、陸と海のそれぞれ30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようという国際目標「30by30」の実現に向けて、民間の取り組みなどで生物多様性が保全されている区域を国が認定する制度。太陽生命くつきの森林は2023年度前期に認定を受けた。取材した4月下旬も、キビタキ、メジロ、サシバ、ヒヨドリといった多彩な野鳥が確認されていた。
ただ、シカの食害が大きな課題になっている。海老沢さんとNPOのスタッフ木下彰さん(55)の案内で斜面を登っていくと、シカよけ柵に囲われて保護された一角があった。ネットの内側は地面から草木が芽を出し、低木も新緑が鮮やか。「キンラン(ラン科)も生えている」と海老沢さん。柵の外側との違いが際立っていた。
尾根にかけての斜面に生えて…