第107回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場している広陵高校(広島)は10日、大会の出場を辞退すると発表した。今年3月、日本高校野球連盟から「厳重注意」とされた暴行事案をめぐって、SNS上で批判や誹謗(ひぼう)中傷が殺到していた。
広陵は7日の1回戦で旭川志峯(北北海道)に勝ち、14日に津田学園(三重)と対戦する予定だった。大会本部によると、今回の出場辞退に伴い、津田学園の不戦勝になるという。
同校の堀正和校長は10日、記者団に対し「過去に日本高野連に報告した部員間の暴力を伴う不適切な行為だけでなく、監督やコーチらから暴力や暴言を受けたとする複数の情報がSNSなどで取り上げられた」として、「こうした事態を重く受け止め、本大会への出場を辞退した上で、速やかに指導体制の抜本的な見直しを図ることにした」と述べた。
学校が硬式野球部の運営体制や環境を調査する間、中井哲之監督が部の指導から外れることも明らかにした。
堀校長は「新しい事実が発覚したわけではない」とした上で、2回戦からの出場辞退を決めた理由について、SNS上での誹謗中傷によって大会の運営に大きな支障をきたしているほか、高校野球の名誉や信頼を損ねている点をあげた。
また、ネット上に学校の寮の爆破予告が書き込まれたり、登下校中の生徒が中傷され、追いかけられたりすることもあったと説明。「生徒や教職員、地域の方々の人命を守ることを最優先した」と述べ、暴行事案と関係のない選手が責任を取る形になったことを問われると「苦渋の決断」と強調した。
学校側の説明によると、暴行事案は1月22日、当時の1年生部員が部で禁止されているカップラーメンを寮内で食べたとして、上級生から暴行を受けた。
学校側の事実確認に対し、2年生4人が名乗り出て、それぞれが注意するため個別に部屋を訪れ、ほおや胸をたたいたり、胸ぐらをつかんだりしたことを認めたという。
学校は日本高野連に県高野連を通じて報告し、日本高野連は3月に「厳重注意」をした。関わった上級生4人については1カ月以内に開催される公式戦には出場しないよう指導したという。
ただ、厳重注意は、学生憲章に基づく規則で原則公表しないと定められているため、当時は高野連や学校からの発表はなかった。
被害生徒は3月末に転校したが、保護者は「学校が確認した事実関係に誤りがある」と訴え、5月まで協議を続けてきたという。
その後、学校側が認定できなかった内容を含めた暴行事案がSNS上で明らかにされ、学校側は大会期間中の今月6日に事実関係を明らかにした。
さらに、元部員が監督とコーチ、一部の部員から2023年に暴力や暴言を受けたとする別の暴行情報がSNS上で拡散。この件について同校は7日、第三者委員会を6月に設置して調査を進めていることを明らかにし、これまでの学校側の調査では「指摘された事項は確認できなかった」と説明した。
広陵の対応について、大会本部はこれまで、日本高野連が「厳重注意」とした暴行事案について、「SNS等で拡散されている事案の内容と、広陵高校が日本高野連に報告した内容に違いがあったが、学校側から6日、これまで報告していた内容以外に新たな事実関係はない旨、表明があった。主催者としては大会出場の判断に変更はない」と発表していた。
別の暴行事案については、「第三者委員会の調査結果を受けた学校からの報告を待って、日本高野連が対応を検討する」とコメントしていた。
広陵は春の選抜大会に27回出場し、優勝が3回。夏の選手権大会は26回の出場で4回の準優勝を果たしている。
堀校長と報道陣の主なやりとり
――出場の辞退に至った経緯を。
「広島県高野連に(部員間の暴行事案の)報告書を出し、日本高野連から指導を受けた。その状況を踏まえ、大会に出場していいかどうかを判断し、今大会に臨んだ。そういった中で、報告内容が違うんじゃないかとSNSに上がり、生徒の親御様と野球部長でやりとりをした。その途中経過の報告内容がSNSに上がった。途中の状況ではあったが、SNSで見られる方はそれが全てだと思われたと思う。その違いが生じたことで多くの問題が出たように思う」
「本校として声明文を出し、初戦を終えたが、その時に(SNSで)確認したのが、全然報告を出していない事案。細かく調査したが事実関係が出てこず、第三者委員会にゆだね、結果を待っている状況。事実が出てきていない状況の中では、大会に出場していいと判断した」
「しかし、先の1件目の件、それによるSNSで大きな反響、さらには(調査)結果の出ていない件について、いろんな誹謗中傷が出て、大会運営に大きな支障をきたしている。本校も甲子園を目指して頑張ってきた学校でありながら、高校野球の名誉、信頼を大きくなくすことになる」
「そして、本校の生徒が登下校で誹謗中傷を受けたり、追いかけられたり、寮の爆破予告(のネット投稿)があったりするということも、SNS上で騒がれている。校長として生徒、教職員、地域の方々の人命を守ることが最優先だということを踏まえ、辞退に踏み切ることを決意した」
――選手にはいつ、どう伝えたのか。
「9日夜に理事会を終え、(中井哲之監督を通じて)宿舎にいる野球部長に連絡を入れた。選手は失意のどん底だったと思う。子どもたちも、心を立て直すことはまだ厳しい状況だが、10日朝に宿舎を出発して、バスで広島に向かった」
――校長として、どんな対応をすれば良かったと思うか。
「一つひとつの事象を、両者が納得をして終える形を取ることが何より最優先。そこを職員に指導できなかったことは、校長としての私の責任。深く反省している」
――「SNSで誤解もある」との認識の中で辞退になった。
「そこに行くまで、なぜもっと細かい、お互いが了解し合えるような対応・対処をしなかったのか。私自身も一つひとつの事案を細かく確認できていなかったことが、大きな問題だと思っている」
――辞退により、暴行事案と関係がない選手も責任を負う。
「苦渋の決断。校長としてこれからどうしていくのか、子どもたちのケアを含めて真摯(しんし)に考えていきたい」
――中井監督やコーチからの暴力や暴言はなかったのか。
「(調査して)確認したが、そういったことは一切ない」
――中井監督から辞任の申し入れは。
「まずは抜本的に、野球部の運営体制や環境を学校としてきちんと把握、調査をしていきたい。その上で(の判断)になるので、監督とそういう話はまだ一切していない。ただ、学校の調査の間は指導から外れてもらうことは伝え、監督本人も承諾している」
――生徒たちはSNSでの騒動を把握していたのか。
「選手たちは野球に集中するため、携帯電話を(甲子園に)持っていかないでおこうとチームで考え、指導者が了承・了解をしていた。野球部長の動きが慌ただしかったこともあり、心配をしてした選手もいるかもしれないが、基本的には分からなかったと思う」
――理事会では全会一致で決まったのか。
「理事は5人おり、中井監督が(自ら進言して)外れたため、4人の理事で決議した。最終的には全会一致。本当に(生徒の)人生がかかっていることなので、慎重に慎重を期して、決断をした」
――野球部が甲子園で1試合終えた後の判断となった。
「報告しなければならないことや、不祥事に関することが(新たに)出てくれば、直ちに検討している。そういうことが起こっての辞退ではない」
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出場辞退を受けて、関連記事の一部を配信停止しました。