運休中のJR美祢線のあり方が議論されている。復旧案をめぐり、関係者の立場が異なるなか、「地域の足」の課題をどう解決するのか。公共交通政策に詳しい加藤博和・名古屋大学教授に聞いた。

名古屋大学の加藤博和教授=2025年5月8日、名古屋市千種区、池田良撮影

略歴

かとう・ひろかず 1970年生まれ。名古屋大大学院環境学研究科教授。国土交通省の交通政策審議会委員を10年間務めた。各地の自治体の諮問機関などに入り交通政策について助言をしている。

 ――美祢線の現状をどうみていますか。

 美祢線単体で考えると、利用者が少なく、収支としては厳しい。これまで長く利用を下支えしてきた貨物列車が2009年に運行を終えたことも大きい。山陽と山陰の南北を結ぶ鉄路ではありますが、利便性などから車利用が多い。鉄道復旧を求めるのであれば、「鉄道でないといけない意義」を、自治体側は示す必要があります。

 ――復旧案として、鉄道のほか、バス高速輸送システムや路線バスといった案があります。

 例えば、主要な駅間のみを鉄道復旧にして、ホーム上でバスと乗り入れるなど、鉄道とバスを組み合わせるやり方もあります。現在の不通区間を補う代行バスの利用の実績や需要を分析して、利便性と持続可能性がある公共交通を探ってほしいです。

 ――鉄道復旧を求める自治体の姿勢について、どう考えますか。

 ローカル線の多くが赤字なのは、国鉄の分割民営化の当時から変わりません。国鉄民営化の際、自治体の基本的な考え方は、事業者が赤字路線も継承するというものでした。このため、自治体はローカル線の課題を事業者に丸投げし、当事者意識を欠いてきました。

 美祢線の課題に直面したことで、自治体は鉄道を含めた公共交通を再考する機会になりました。公共交通のあり方に積極的に関与できる好機と捉えてほしいです。

名古屋大学の加藤博和教授=2025年5月8日、名古屋市千種区、池田良撮影

 ――自社単独での鉄道復旧を「困難」としているJR西日本の姿勢について、どう考えますか。

 地方の不採算路線の収支が厳しいのはわかります。しかし、JRにできることはまだあります。駅舎の改築などでまちの交流や拠点づくりに貢献できますし、バス会社との相互利用サービスなど、公共交通の利用を促進できる策はあります。経営体力があるJRだからこそ、できることです。

 ――廃線は、地域の衰退につながりますか。

 それは違います。もともと鉄道がないまちもあります。「鉄道の既得権」にしがみついてはいけません。北海道のJR石勝線夕張支線は、夕張市が廃線を提案し、バスを充実させるほうが地域の得策になるとして、「攻めの廃線」を選択しました。まちにとって、最適な公共交通のあり方を導いたのです。

 ――ほかに課題解決の糸口となる事例は。

 茨城県のひたちなか海浜鉄道は、沿線の学校の需要に応えて通学時間帯に増便するほか、乗車証明書で周辺施設の割引が受けられるサービスを展開しています。

 鉄道を軸としたまちづくりを進めることで、沿線のまちとの相乗効果につなげています。ローカル線では異例となる延伸事業も手がけています。

 滋賀県米原市の米原駅では、仕事のできる空間や、電車を眺められる屋上広場などを設けて、「地域のにぎわいの場」として貢献しています。

 ――美祢線をめぐる議論の今後は。

 輸送モード(手段)ありきの議論ではなく、どうやって「地域の足」を生かしたまちづくりをするのか。ビジョンを示し、最適な公共交通のあり方を考えるべきです。

 自治体が鉄道の復旧を求めるのであれば、まちづくりに鉄道を柱にした施策を盛り込むなど、「鉄道とともに生きる覚悟」が必要です。

 鉄道を復旧しても、それで終わりではありません。人口減少が収まらないなか、鉄道とどう歩むのか。自治体が自ら描いてほしいです。

共有
Exit mobile version