日本の敗戦直後、旧満州(中国東北部)で岐阜県白川町(旧黒川村)の開拓団は、若い女性たち約15人に旧ソ連兵への「性接待」を強いることで生き延びた。近年になって当事者の女性たちの勇気ある証言で知られるようになったその顚末(てんまつ)がドキュメンタリー映画になった。「黒川の女たち」は12日、地元・岐阜県をはじめ全国で公開される。
敗戦後、旧日本軍に置き去りにされた開拓団は、現地住民らから襲撃や略奪を受け、集団自決する開拓団もあった。黒川分村開拓団の幹部は近くの旧ソ連軍に警護を依頼。その見返りに17~21歳の未婚女性約15人が差し出された。
帰国後は長く伏せられていたが、2010年代に同県郡上市の佐藤ハルエさん(24年に99歳で死去)ら体験者の女性が公の場で証言。悲劇を語り継ごうと、18年には開拓団の遺族会により、犠牲を悼む町内の「乙女の碑」に経緯を伝える詳細な説明書きが建てられた。
映画は、当事者の悔しさや、証言活動を支えた人たちの思いを丁寧に描く。極限状態での出来事だったこと、引き揚げ後は恥として隠され、多くが地元にいられなくなったこと……。現地中国での取材も交えた。
過去を知ろうとする人たちに、女性たちは
証言が少しずつ知られるようになると、メディアや教員、学生らが「話を聞きたい」と当事者の女性を次々と訪ねてくるようになった。カメラはその様子も捉える。圧巻は、過去を知ろうとする人たちに女性たちが励まされていく様子だ。
「ばぁちゃんが自殺しなくてよかった。(中略)嫌な思い出を話してくれてありがとう」。すべてを知った孫がこんな手紙を出し、受け取った女性が笑顔になる、その瞬間も映した。
今回の映画で監督を務めたテレビ朝日の報道ステーション元プロデューサー、松原文枝さんは「ひとりが体を張って社会に向き合うと、何が起きるか。目の当たりにした」と話す。
同県白川町に住む遺族会長の藤井宏之さん(73)と妻湯美子さん(75)は12日の封切り日に映画館に駆けつけるつもりだ。
湯美子さんは「女性たちは帰国後『恥だから隠せ』と言われた。帰ってきてからの方がつらかったのではないか」と話す。宏之さんは「戦争になると、何が起きるのか。ほかでも黒川と同じようなことがあったかもしれない。特に次の世代の人たちに映画を見てほしい」。
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東海地方では12日からイオンシネマ各務原(岐阜県各務原市)、イオンシネマ土岐(同県土岐市)、イオンシネマ岡崎(愛知県岡崎市)、イオンシネマ東員(三重県東員町)、同26日からナゴヤキネマ・ノイ(名古屋市)などで上映される。