放射線教育の授業で使うスライドについて説明する日野彰=2024年2月16日、福島県富岡町の町立富岡中学校、笠井哲也撮影

 部活動がない水曜午後、学級活動にあてられた45分間が日野彰(55)にとっての「はじまり」だった。

 2020年、東京電力福島第一原発事故による避難指示が一部地域で続く福島県富岡町は、西に50キロほど離れた三春町に仮設校舎の「富岡中学三春校」を構えていた。おのおのの避難先から三春まで通学するのに、全生徒が送迎バスを利用していた。授業が終わると、帰りのバスが出るまでには「待ち時間」がある。同校では、その時間を「さくらタイム」と呼んで45分の学級活動にあてていた。

 新学期が始まると、数学科を担当する日野は、教頭にこう持ちかけた。「さくらタイムで、放射線教育をやってもいいですか」

 「必要であるなら、やってください」。教頭は、日野の提案を受け入れた。

 16年11月、福島県から横浜市に自主避難した男子生徒が名前に「菌」をつけて呼ばれるなどした被害が発覚。文部科学省は翌年4月、福島県内外に避難した子どもへのいじめが129件確認されたと発表した。

 生徒たちが県内外で差別や偏見を受けないために何ができるのか。三春校では各教科ごと、放射線について教えようという機運が高まった。日野も、数学の時間にミリシーベルトからマイクロシーベルトへの換算などを扱ってみた。

 だが、教科で教えられることには限界もある。そこで当時、学級担任でもなかった日野が目をつけたのが、さくらタイムだった。

 日野には1年で45分間が2コマ分用意された。対象は全校生で、20年度は2年生3人。さっそく指導計画案作りに取りかかる。

 身のまわりにも放射線は存在すること、内部被曝(ひばく)と外部被曝の違いなど、放射線の性質について正しい知識を伝えることは大事。だが、日野にはどうしても盛り込みたいことがあった。計画案の「ねらい」には、こう書き込んだ。

 被害の大きさや、避難を余儀…

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