第107回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)で広陵高校(広島)が10日、寮内での上級生による下級生への暴行事案などを受け、大会の出場を辞退した。指導体制の抜本的な見直しを図るという。
高校野球では過去にも、部員間の暴力やいじめが発覚してきた。
2011年には青森県の私立高で、寮で禁止されていた焼き肉をした1年生が、2年生に暴力をふるわれた後に亡くなった。
13年には大阪府の私立高の寮で、2年生3人が1年生に殴る蹴るの暴行を加え、被害者が救急搬送された。日本高野連への報告では、2年生たちが自分たちをからかうように1年生に強制し、それを理由に暴力をふるったという。
14年には愛媛県の私立高で悪質ないじめが発覚し、1年間の出場停止処分を受けた。2年生6人が1年生19人に対し、「練習態度が悪い」と、日常的に殴る蹴るの行為をしていたほか、1年生同士に殴り合いを強制していた。
18年には、高知県の私立高の校内の寮で、暴力行為があった。2年生3人が1年生7人に対し、生活態度などを巡ってトラブルとなり、顔や腹などを殴った。
近年は、いじめも目立つ。日本学生野球協会の対外試合禁止処分を、23年9月以降に発表された2年間でみると、部員間のいじめを理由として10件、部員間の暴力によるものは2件あった。
こうした事案は野球部以外でも起こってきた。22年には北海道の私立高スキー部で、部員間の暴力があり、加害生徒3人が停学処分となった。
23年には、千葉県の私立高のレスリング部でいじめが確認され、高校総体の出場を辞退している。
暴力やいじめ 背景に寮の閉鎖性も
部員間の暴力やいじめは、大人の目の行き届きづらい寮が舞台となることが多い。寮を持つ学校や部が苦慮するところだ。
朝日新聞と日本高野連が加盟校を対象に5年ごとに行う実態調査をみると、野球部専用の寮がある学校は08年の3.7%から23年度は5.7%に増加している。
17年に春の選抜大会を制した大阪桐蔭では、寮生活で学年による上下関係を取り除く改革がなされた。
当時のキャプテンの福井章吾さんは、「先輩が後輩より動く文化を作る」という考えに立ったという。
福井さんが下級生のころは、先輩の部屋でマッサージをしたり、洗濯物を干したりするのが当たり前だった。そうした慣習をなくし、上級生が掃除や雑用を率先して行い、洗濯も自分たちでやるようにした。
ミーティングでは、後輩に芸をさせる伝統をやめた。食事の時間も、1年生は「3分で食べろ」と言われていた悪習を絶った。
興南(沖縄)の我喜屋優監督は寮でも、選手たちの声をきめ細かく聞くようにしている。
「選手に定期的に、『最近、嫌な思いをしなかったか』『殴っている人を見ていないか』といったアンケートも取る。選手には訴える勇気も必要と教えてもいる」という。
普段からの教育の大切さを強調する。
「暴力はもってのほかで、刑事事件になると教えている。目で威圧するのもダメ。世の中でやってはいけないことは、寮でも学校でもやってはいけないのは当たり前だよと」
もう一つは、先輩後輩の関係への考え方だ。
「年が一つ、二つしか違わないのに、『先輩面してはいけない』と伝えている。先輩が後輩に買い物や洗濯、マッサージを命じるのも禁止。言葉の使い方も、『おい』といった横柄な呼び方をしないよう、注意している。横柄になると、それが暴力、いじめにつながるから。お互いを尊重し、協力するように伝えている」
追手門学院大の吉田良治・客員教授(コーチング論)は寮の閉鎖性を指摘する。
「部専用の寮はずっと同じ集団で生活し、自宅など逃げ場がなくなる。そもそも24時間の監視と、そこで起こっていることの100%の把握は無理。日頃から、外から見えやすく風通しの良い、自由な風土をつくらないといけない。スポーツをする高校生にも社会の中で生きている時間が必要。スポーツ一筋で頑張れ、という昭和的な発想から抜け出す必要もあるのでは」