Smiley face
写真・図版
穂村弘さん

言葉季評 歌人 穂村弘さん

 前回、新聞などの投稿短歌の中に描かれた父親たちの姿を見た。「コタツは文化の日に出すんや」と主張する父、「こんなのは女の喰うもの」と云(い)いながら板チョコをむしゃむしゃ食べる父、バナナがばらばらにならないようにテープで房を固定する父など。どこか独りよがりな面白さと、時にはそれを超えてしまったヤバさ。思い込みの方向性や強度はそれぞれ違っても、いずれもユニークな父親たちがいた。

 だが、短歌に描かれる母親たちの言動にも、負けず劣らず印象的なものがある。今回はそんな母たちの姿を見てゆきたい。引用した短歌は、吉岡生夫氏とシラソ氏の作品を除いていずれも日経歌壇より。

 

もう風邪を引いているから平気だと言って炬燵で寝てた母さん

たろりずむ

 

 炬燵(こたつ)で寝たら風邪引くよ、と注意したのかもしれない。すると、もう引いているから平気、という答えが返ってきた。なんだ、その理屈は。人間は一度死んだら二度は死なないけど、風邪の場合はどう考えても間違っている。なのに、母さんは堂々としている。捨て身のだらしなさがもはや恰好(かっこう)いい。

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