新著「倫理資本主義の時代」(ハヤカワ新書)の出版を機に、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルさんが朝日新聞の取材に応じた。気鋭の哲学者が提唱する、倫理と資本主義の統合とは。そして新著を母国や英語圏に先駆けて日本で出版した理由とは。
――これまでも倫理と経済の関係についてさまざまな機会に発信されてきましたが、この本を出版された意義は
私が提唱する「倫理資本主義」の全体像を提示するのはこの本が初めてになります。その要点は、経済における倫理的価値は脇役ではなく、むしろ経済を動かすものであることを示すことです。
企業の利益追求の誤りについては、ジャーナリストが調査報道などで指摘します。悪質な企業はあるでしょうが、企業にとっても倫理的に正しいことは本来利益になるというのが私の主張です。
《新著の中で、資本主義の問題点を認めながらも、資本主義を諦めて社会主義のような別の経済システムと取り換えるというような主張を現実的ではないと否定する。求められているのは「革命」ではなく資本主義の倫理的な側面を強化するような「改革」だとして、事業活動に倫理的な問題がないかを点検する最高哲学責任者(CPO、チーフ・フィロソフィー・オフィサー)を企業が設置することなどを提起する》
記事の後半では、新自由主義的価値観がもたらした様々な問題、そしてこの本を母国ドイツや英語圏に先んじて日本で出版した理由について語ります。
――魅力的な主張ですが、現実的には悪質な行いで利益を出す企業もいるでしょう。短期的な利益を意識する企業にとって、現実的な解決策となりえるのでしょうか
企業が道徳に反する行いを続…