小説家の志賀直哉(1883~1971)の代表作「暗夜行路」の新たな草稿(下書き)が、生前暮らした千葉県我孫子市で見つかった。志賀の全集に収められていない草稿とみられ、鑑定にあたった生井知子・同志社女子大教授(日本文学)は「大変貴重な資料だ」としている。
市によると、草稿は市販のノートに49ページにわたり書かれている。鉛筆書きで何度も推敲(すいこう)した様子がわかる。
草稿は、主人公の順吉が友人、妻と花札遊びをするが、妻がずるをして勝ったのではないかと疑う。ところが、妻は花札をよく知らなかっただけだった、などとする内容。小説の主人公は「時任謙作」だが、草稿では「順吉」となっているのが特徴だ。
「暗夜行路」は志賀唯一の長編小説。1912年から執筆に取りかかり、21年に前編を発表した。草稿は後編の一部と一致しているという。
草稿には当時の心境や手紙の下書き、家の間取りなども描かれており、志賀が我孫子に移り住む前の15年夏ごろまでに書かれた模様だ。
識者「後編の資料はほぼなく、制作過程は謎」
我孫子を去る際、交流のあった剝製(はくせい)製造店を営む小熊太郎吉氏が譲り受けたらしく、小熊氏のひ孫が昨年4月、自宅で発見。我孫子市白樺文学館に相談し、この春、市に寄贈された。
生井教授によると、「暗夜行路」は直哉の実体験を軸に書かれているが、後編が書かれた際の資料はほとんど残っておらず、制作過程は謎に包まれていたという。