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生徒代表から花束を受け取る吉野監督(左)と平野主将=柏崎市安田
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 快進撃を続けた「夏」が終わった。第106回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場した新潟産大付は、新潟大会からのすさまじい勢いを京都国際(京都)に止められた。新潟産大付は春夏通じて甲子園初出場。その台頭は、新潟の高校野球界の明るい兆しではないか、と記者は感じた。

 新潟大会ではノーシードだった同校。準々決勝で日本文理に競り勝つと、がぜん注目を浴びるようになった。準決勝では中越に先行されながら、しぶとい野球で逆転勝利。さらに決勝では終始、帝京長岡に彼らの野球をさせなかった。怒濤(どとう)の勢いだった。

 甲子園に乗り込んでの花咲徳栄(埼玉)戦。選手たちは全国制覇の経験がある強豪を前に、まったく臆することはなかった。先制されたものの、先発したエース宮田塁翔と、継投した田中拓朗が相手のペースを乱す投球で追加点を与えない。打っては六回に千野虹輝の適時打で追いつき、七回には多田大樹の決勝打が飛び出した。強い緊張感の中での初戦を、無失策で乗り切った。

 試合直後こそ選手たちは喜びを爆発させた。だが、取材エリアではすでに次戦を見据えているのか、精悍(せいかん)な顔つきをしていた。勢いのチームではなく、「強いチーム」になっていた。

 2戦目の京都国際は今春の選抜大会に出場した強豪だ。新潟産大付は六回まで幾度も危機をしのいだが、終盤に押し切られた。ただ、選手のひたむきな姿勢に観客は魅了された。最終回にはアルプスに陣取った応援団の演奏や歓声とともに、万雷の手拍子がスタンドから湧いた。ノーシードから勝ち上がった初出場校が、甲子園で見せた好ゲーム。今後の新潟の高校野球界にも、きっと良い影響を与えるだろう。

 そんな同校を語るうえで外せないのが吉野公浩監督だ。抽選会の時、主将の平野翔太は選手宣誓に手を挙げなかった。「ビビっちゃって……」。するとすかさず「試合を第一に考えたんだよな」と吉野監督が笑いながらフォローした。

 吉野監督はかつて中学生を指導していた。子どもたちの心を読み、つかむのが上手なのだろう。好きな言葉は「情熱」。情熱と優しいまなざしで今後も好選手を育ててくれるだろう。そんな選手たちが、吉野監督がたびたび口にする「ドラマチックな試合」を見せてくれると期待する。

 もう一つ。平野は新潟で高校の先生になりたいそうだ。野球の指導者にもなって、甲子園での経験を生かしてくれたら――。勝手ながら、そんな将来も楽しみにしたくなる夏だった。(鈴木剛志)

     ◇

 新潟県柏崎市から初めて夏の甲子園に出場し、新潟勢として7年ぶりに勝利を挙げた新潟産大付の選手たちが15日、同市の母校に戻り、父母や学校関係者らの出迎えを受けた。

 午後3時すぎ、選手たちを乗せたバスが同校に到着。真っ黒に日焼けした顔を見せると、玄関前の広場に集まった百数十人が拍手で迎えた。「おかえり」「ごくろうさま」「ありがとう」などの声があがった。

 選手たちはそのまま生徒玄関の前に整列。花束贈呈に続いて、吉野公浩監督が初戦の花咲徳栄(埼玉)戦について報告し、「新潟の高校生も、ガードを固めれば、ああいう試合ができることが分かった。攻撃のバリエーションさえ増やせば、十分に戦える」と語った。

 続いて平野翔太主将(3年)もあいさつ。「令和初の一勝を新潟に、柏崎に届ける、を目標にやってきた。自分たちにはプロ注目の選手はいないが、自分たちの野球をすれば、勝てるということを示すことができた」と初戦を振り返った。そのうえで「甲子園は本当にいいところだった。ぜひ後輩たちも吉野監督を甲子園に連れて行ってほしい」と、1、2年生への期待を口にした。(久保田正)

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