自社株を買う「余分な資金」があるなら、将来の投資に回した方が、長期的にみれば企業価値(株価)を上げられる――。経済産業省の有識者会議が近く、そんな内容の提言を出す。「株価を意識した経営」が定着する一方で、目先の株価を気にするあまり、行きすぎた株主還元に走る企業も目立つ。そうした動きにクギを刺すもので、企業経営のあり方に一石を投じそうだ。

企業が自社株買いに走る理由の一つとして、投資家による株主還元のプレッシャーが指摘されています。記事後段では、有識者会議の委員でもあり長年機関投資家として株式投資を行ってきたアストナリング・アドバイザー合同会社の三瓶裕喜代表に、企業と投資家のあるべき関係性などについて話を聞きました。

急増する自社株買い、成長投資は伸び悩み

 上場企業が過去に発行した自社株を買うと、市場に流通する株数が減るため、1株あたりの利益を増やせる。配当が増えることへの期待などから、株価を上げる手段としても活用されている。東京証券取引所が2023年3月、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求めたことで、自社株買いが急増。13年度は総額2兆円ほどだったが、23年度は8.6兆円に増加。24年度は16.4兆円と2倍近くに膨らんだ。

自社株買いの推移

 有識者会議は大手企業のトップや経営団体の幹部ら、各界の有力者で構成。企業の成長戦略のあり方などについて議論してきた。

 今回まとめた報告書では、自社株買いは企業価値の向上に一定の役割を果たしているものの、短期的な利益を追求する「物言う株主」(アクティビスト)の要求に応える形で、自社株買いを優先しているケースもあると指摘。持続的な成長を実現するため「投資機会が潤沢にあるならば、必ずしも株主還元を重視すべきではない」とも記した。

 単純に比較はできないが、自社株買いに比べて、設備や研究開発にかける「成長投資」の伸びは小さい。23年度までの10年間の伸び率は1.5倍程度だった。報告書では、成長力を高めた企業は、配当や自社株買いが少ない傾向があるとするデータも示した。

 また、上場の維持にかかるコストが負担になる場合、非上場化も「戦略的な選択肢」だとした。経産省は今後、非上場化に必要な社債などの資金の供給者を増やすための支援策などを検討するという。

 有識者会議の座長は、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センターの沼上幹教授(経営学)が務める。メンバーは、木股昌俊・クボタ特別顧問や後藤禎一・富士フイルムホールディングス社長といった大物経営者も多い。

■伊藤レポートから10年、企…

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