自身初完封した履正社の江藤幸大

 (10日、春季近畿地区高校野球大会大阪府予選準々決勝 履正社4―0東大阪大柏原)

 気持ちの強い選手だと思った。履正社の江藤幸大(3年)のことだ。

 この日、先発登板した右腕は最速145キロを誇る直球を軸に、スライダーを低めに集めた。走者を背負っても表情をまったく変えず、安定した投球で9回を被安打2、9奪三振、無失点。これが自身初の完封だという。自信を深めつつ、「ちょっと疲れました」と本音をもらして笑った。

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 昨年8月、突然の別れを経験した。父・雄(つよし)さんが大動脈解離で他界。40歳という若さだった。小学1年で野球を始めたのも、元高校球児の雄さんの影響だ。捕手だった父とはよく一緒に練習をした。練習中に知った出来事に「最初はもう、何も考えられなかった」。

 それでも、母からは「お父さんが亡くなって悲しいけど、野球は頑張ってほしい」と背中を押された。その思いに応えるように無心でトレーニングに打ち込み、直球の最速は昨秋から5キロほどアップした。

 入学時から江藤を見てきた多田晃監督は明かす。「そんなに気持ちが強いタイプじゃなかったんですけど、この冬は休むこともなく練習に取り組んでいた。お父さん、お母さんのためをすごく思って、頑張っていたと思う」

 チームメートも変化を感じたのだろう。普段から背番号はチーム内の投票で決めるが、今大会で初めて江藤が「1」に選ばれた。その成長は誰もが認めていた。

 江藤は今、野球に集中できているという。「お父さんが常に後ろを支えてくれている」。ずっと見守ってくれる父の存在が、大きな力になっている。

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