グラフィック・甲斐規裕

時をよむ 論説委員室から

 終戦直後の旧満州(中国東北部)でのことだ。関東軍に置き去りにされた、岐阜県旧黒川村(現・白川町)の開拓団は、暴徒の集団に襲われた。隣の開拓団は自決した。黒川の開拓団は旧ソ連軍に警護を頼んだ。代償は団の未婚女性約15人の「性接待」だった……。

 公開中のドキュメンタリー映画「黒川の女たち」が描く史実だ。松原文枝監督の近刊「刻印」(角川書店)によると、製作のきっかけは、2018年8月20日付の朝日新聞記事「『性接待』語る 満蒙開拓の女性たち 『なかったことにできない』」だそうだ。

 他社も取材する中、私が同僚と書いた記事だ。松原さんに確かめると、被害者の同県郡上市、佐藤ハルエさん(24年、99歳で死去)の張り詰めた顔の写真に目を奪われたのだという。

 私も忘れられない。

 ハルエさんは言った。

 「『(夫が)兵隊に行かれた…

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