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民主政治が「脱線」するとき

デモクラシーと戦争① 民主政治が「脱線」するとき

 世界各地で、政党政治が揺らいでいる。

 政策の選択肢を示し、競い合い、折り合い、民意をまとめ、より良い選択へ導く。本来、政党に期待される役割だ。しかし、違いを強調するあまり、互いを否定し、衝突し、果ては力でねじ伏せようと試みることさえある。それが有権者の失望を招く。

 韓国では政治の極端な二極化とイデオロギーの争いで、与野党の対立が極限に達している。その末に、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が野党を封じようと非常戒厳を発し、国会に軍隊を派遣する事態になった。

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ソウルの国会議事堂前では、入り口を警察官がふさぎ、集まった市民らともみ合いになっていた=2024年12月3日午後11時20分、太田成美撮影

 約4年前、米大統領選で不正があったと言い張るトランプ氏――次期大統領となる――にあおられ連邦議会議事堂を襲った人波は記憶に新しい。

 ドイツでは政権内の対立で3党連立が崩れ少数与党化するなか、「ドイツのための選択肢(AfD)」など、移民や難民の排斥や受け入れ大幅制限を掲げる急進右派や左派ポピュリストの政党が急速に支持を広げている。2024年には欧州議会議員が選挙前に極右過激派の一員とみられる若者に襲われた。右翼政党も多くの暴力被害を受けた。政治的動機による犯罪が10年間でほぼ倍増したと連邦刑事庁長官は述べている。

 「政治的な動機による暴力が常態化してきている」。シュタインマイヤー大統領は同年9月、テロや襲撃、脅迫の被害にあった警察官や政治家、ジャーナリストらとの円卓会議で危機感を語った。わずか3カ月後、ドイツ東部マクデブルクではクリスマスマーケットが襲撃される事件が起きた。その後の演説で大統領は、「憎しみと暴力に最終決定権を握らせてはならない。我々を分断させることは許さないようにしよう」と述べ、国民に団結を呼びかけた。

 社会は移民問題などをめぐり分断し、経済はロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰などで停滞する。問題を解決できない既成政党への失望。それが政治的暴力が続く背景にある。

 漂うのは「ワイマールの亡霊」。百年前を想起させる空気だ。

 1919年に成立したドイツのワイマール共和国は、男女同権の普通選挙制度をはじめ、世界一民主的とされる憲法を携えていた。だが一方で、ナチス政権の成立で崩壊するまでのその14年間は、政治的暴力が横行する時代でもあった。

【連載第2回】「憲政の神様」が突き進んだ泥仕合 信を失った政党、隙をついたのは

 世界と日本の100年を振り返り、私たちの未来を考えるシリーズ「100年をたどる旅―未来のための近現代史」。今回の「デモクラシーと戦争」編では、多くの国で理想と考えられてきた民主的な政治形態がしばしば戦争や抑圧を防げなかった経緯をたどります。連載第1回と第2回では、「政党政治」を取り上げます。

世界の非難に背を向ける国 イスラエルが陥った「ひずみ」

 当時のドイツも、第1次世界大戦の賠償やインフレなどで社会が混乱。小党が乱立し、選挙ごとに連立政権の組み合わせが変わる。激しい政争が、暴力を伴ってエスカレートしていった。

 暴力は突如ナチスとともに生…

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