愛知県武豊町長名で犬猫の供出を呼びかける回覧板。日付は1944年10月3日。「今回軍需品トシテ犬猫皮ヲ供出スル事」と命令内容を紹介し、「大犬七円、中犬四円、小犬二円、猫三円」で買い上げると記載している=武豊町歴史民俗資料館蔵

 太平洋戦争末期、全国各地の動物園で「空襲でおりが壊れて脱走したら危険」などとして、猛獣の殺処分があった。だが戦時中の動物の犠牲はそれだけではなかった。家でかわいがられていた犬や猫も、国の要請で集められ、命を奪われた。

 「兄弟のように暮らしていた犬がお国のために殺された」

 終戦から40年近く経った1983年。児童文学作家の井上こみちさん(85)は、都内の自宅近くで犬を散歩させている女性と話をしているとき、そう打ち明けられた。

 女性は「東亜(とうあ)」と名付けたシバイヌを、家族同然に育てていた。小学5年生だった43年秋、東亜の「供出」を求める回覧板が届いた。

 指定された日に、警察署に連れてくるよう記してあった。当日、母は貴重な米で小豆ご飯を作り、東亜に与えた。警察署に連れて行くと、係官は名簿を見ながら東亜を取り上げ、おりに入れた。東亜は遊びの延長のように跳ね回っていたが、女性が泣いているのを見て不安そうにほえ始めた。その後、東亜がどうなったかは分からないという。

「どうして……」

 「軍用犬でもない犬が、どう…

共有
Exit mobile version