「春の軟式交流試合」に出場する育英の大塚亮汰選手=2025年4月29日午前11時1分、兵庫県三田市ゆりのき台、原晟也撮影

 高校入学直後、1年生ながら代打で出場した春の兵庫県大会。結果は凡退だった。それでも、試合に出場できたことがうれしかった。

 「きっと硬式だったら無理だったと思います」

 5月5日、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開かれる「春の軟式交流試合」に、育英(神戸市)3年の大塚亮汰さん(17)が出場する。今夏に全国高校軟式野球選手権大会が70回を迎え、その記念に全国から選ばれた選手が東西に分かれて対戦する。

 全国高校軟式野球選手権大会は例年、甲子園ではなく明石トーカロ球場(兵庫県明石市)などで開催されてきた。

 大塚さんにとっても、「甲子園は一度諦めた場所だった」。

 神戸市出身で、小さい頃から野球好きの両親に連れられて甲子園に足を運んだ。プロ野球選手や高校球児がプレーする甲子園に憧れた。

 小学1年から野球を始め、投手になった。中学ではひじを故障して外野手に転向したが中心選手だった。高校では硬式野球部に入り、甲子園を目指すつもりだった。

 しかし、硬式野球に対する怖さも芽生えていった。甲子園を目指す高校では、一つのミスもできないのではないか。部員数が多く、試合に出られないかもしれない、と思った。

 「硬式だと、好きな野球をやめてしまうと思って。試合に出て成長していくことが好きだから、軟式にしようと」

 甲子園に出場するという夢はそこで諦めた。軟式野球でレベルの高い高校を探し、県有数の強豪校である育英の軟式野球部に入部した。

 軟式野球は硬式野球と違ってゴム製のボールを使うなど、球速が出にくく、打球も飛ばない。得点もなかなか入らない。だからこそ、どのように一点を取るか、どう守っていくのか、そんな緻密(ちみつ)な野球が楽しかった。

 転機は昨秋に訪れた。「甲子園で試合がある」と監督から聞いたとき、心が躍った。

 手の届かない場所にあった恋い焦がれた甲子園が、こっちを見てくれたような気がした。

 育英は昨秋の近畿大会でベスト4に進出し、大塚さんは西日本選抜に選出された。「まさか甲子園の舞台に立てるなんて。両親も泣きながら喜んでくれてめっちゃうれしかったです」

 軟式野球に、甲子園への道が開かれた。

 大塚さんは「軟式は、自分のように試合に出たい人や野球がうまくなりたい人、高校から始める人もいる。硬式だけじゃなくて軟式もあるんだよって知ってもらいたい。来年以降も続いてほしいな」と話す。

 「こんな機会を頂けたことに、感謝してプレーしたい。そして活躍して名前を残したいです」。

 一度は諦めた夢の舞台へ。その目は輝いていた。

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