米国ニューヨークの桜=筆者撮影

 ニューヨークで知り合った女友達の一人は、顎髭(あごひげ)が生えている。頰の産毛が長くなった感じというか、後れ毛が顔からも出てる感じというか、とにかく顎先に山羊(ヤギ)のようなヒゲがある。いつ会っても同じ長さで、考え事をするときにしごく癖まであるので、剃(そ)り忘れではなく意図的に伸ばしているのだろう。

  • 岡田育 ハジッコを生きる

 ……と、日本の人に話したら、本物の女性ですか?と訊(き)かれた。本物って何だよ、と訊き返すと、僕はヒゲの生えた女なんて見たことないし、男なんじゃないかと思って、と言う。アホか。フリーダ・カーロの自画像でもググッて無知を恥じてくれ。

 理髪店でシェービングを受けるたび、このことを思い出してムカムカする。あいつ次はきっと、あなた女なのに床屋に行くんですか?と訊くだろうな。私の髪型はツーブロックなので、美容院と理髪店に交互に通っている。馴染(なじ)みの女性理容師にはバリカンのほか、顔とうなじに剃刀(かみそり)もあててもらう。角質が除去されてすっきりするし、和装で衣紋を抜くにもカッコよく決まるからだ。件の彼女だって、カッコいいと考えて顎髭を残しているだけだろう。

 二十代の頃に知り合った別の…

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