インドとパキスタンは今年5月に軍事衝突を起こしました。「核保有国」である両国の対立の背景に何があるのか。主にパキスタン側の事情について、就実大教授の井上あえかさんに聞きました。
――今回の軍事衝突では緊張が走りました。
「基本的にはインド・パキスタン分離独立以来続いている北部カシミール地方の帰属をめぐる対立です。インドとの戦争は1948年、65年、71年の3回起きました。地域的な交戦は散発的に起き、数年に1度、大きな規模に発展しています」
「インドは今回の発端となった観光客襲撃の背景に、イスラム武装勢力を支援するパキスタン政府がいたと主張していますが、パキスタン政府は否定しています」
――実際のところは?
「詳しい事実関係はわかりません。2000年代初めまでは支援していたと思われます。カシミールで武装勢力が破壊活動をしていると、インド政府は部隊を常時カシミールに駐留させる必要があり、軍事的負担になります。パキスタン政府にすると、インドとの軍事力の差を安価に縮める方法だったと言えます」
「でも現在のパキスタンは政府も軍も戦争回避を望んでいると思われます。パキスタン国内ではTTP(パキスタン・タリバン運動)やBLA(バルチスタン解放軍)などによるテロが増えており、軍への期待は高まっています。インドとの交戦は軍の負担を増すだけです」
――パキスタンでは子どもを含む民間人も犠牲になり、インド側にミサイルを撃ち込むなど報復しました。
「パキスタンは、やられたらやり返すことができることを、インドだけでなく自国民に対しても示す必要がありました。インド側も同じ論理です。そのため攻撃の応酬が数回ありました」
「ただ、パキスタンには戦争をする余裕はありません。過去3回の戦争はいずれも負けています。今回は米国の仲介を機に矛を収めました。第三国の介入を受け入れることで、自国内で説明がつく状況になったと思います」
――パキスタン政府、軍、イスラム武装勢力の関係はそれぞれ微妙ですね。
「そうですね。文民政権では…