京都市内の宿泊施設がイスラエル人の利用客に対し、戦争犯罪に関与していないとの誓約書に署名するよう求め、イスラエル大使館が「差別的だ」として再発防止などを要請する書簡を京都府と京都市に送ったことがわかった。
関係者によると、京都市東山区のゲストハウスは4月中旬、イスラエル人の男性がチェックインする際に「戦争犯罪に関与したことがない」などと書かれた誓約書への署名を求めた。男性は戸惑いつつも、誓約書にサインして4泊したという。
事態を把握したイスラエル大使館は4月下旬、ギラッド・コーヘン駐日大使名で京都府の西脇隆俊知事宛てに書簡を送った。「差別的行為で、多大な精神的苦痛と不快感を与えた。容認できない」として、行政による調査を求めた。
府から連絡を受けた京都市がゲストハウスに聞き取り調査などを実施した。署名は任意で、特定の事情がある場合を除き宿泊拒否を禁じる旅館業法には抵触しないと判断した。ただ、差別的だと感じる人もいるとして「不適切ではないか」と指摘したという。
その後、イスラエル大使館は5月上旬、京都市の松井孝治市長宛てに再調査と適切な措置を求める書簡を送付。コーヘン大使は「ゲストハウスの要求は日本の『おもてなしの精神』と矛盾する。再発しないよう必要な措置を強く求める」と訴えた。京都市は今後の対応を検討している。
取材に応じたゲストハウスの支配人によると、イスラエルやパレスチナ、ロシア、シリアなど計10カ国・地域の出身で過去10年間に軍に所属した人を対象に、誓約書への署名を半年ほど前から求めている。国際刑事裁判所や国連機関の判断などに基づき、対象者を決めているという。
戦争犯罪を許さないとの理念のほか、「相部屋が多い施設の性質上、他の客やスタッフの安心安全を確保するため」などと説明する。署名を拒まれても宿泊は拒否しないといい、これまでに署名を拒まれたり宿泊を断ったりしたことはないという。支配人は、今後も署名を求めるとしている。
京都市は昨年6月、イスラエル軍関係者の可能性があるとして宿泊を拒否した別の宿泊施設に対し、旅館業法に違反するとして行政指導をした。