2010年3月、シリアで友人と写真に納まる兼定愛さん(左)=兼定さん提供

イスラムでの「悲しみ」との向き合い方<上>

 戦禍が続く中東では、多くの人たちがイスラム教を信仰しています。イスラム思想を研究する東京大大学院特任研究員の兼定愛さんは、シリアなど現地を度々訪れて人々との交流を深める中で、穏やかな暮らしと心の安寧を求める人々が、苦境から生まれる大きな悲しみとどう向き合おうとしているのか考え続けてきました。自らもイスラムの信仰を持つ兼定さんに、現地での経験と研究からの考察について聞きました。上下2回で紹介します。

  • 【連載(下)はこちら】目に見えるものがすべてではない 「絶望しない」ムスリムの心の内は

 ――イスラムの国々を初めて訪れたのはいつですか。

 2009年、大学1年の終わりに、ゼミのアラビア語学研修で1カ月間、イエメン、シリア、レバノンを訪れました。そのとき驚いたのは、現地の人たちの陽気さや優しさでした。街を歩いていると、たくさんの人たちが明るく声をかけてくれました。

 私が中学生だった01年に、米国で同時多発テロが起こりました。テレビを見ていて、ムスリムってみんな狂信的で怖いと思い込んでしまったのですが、それが偏見だったと知りました。

 ――ムスリムの暮らしを間近で見たのですね。

 現地では、日常生活の中にイスラムが当たり前のものとして根付いていて、人々が普通に神様アッラー(アラー)のことが大好きなんだということも伝わってきました。シリア北部のアレッポ大学で仲良くなった学生と一緒に勉強しているとき、その学生が途中で「ちょっとお祈りしてきていい?」と言って、しばらくお祈りに行って爽やかな顔で帰ってきます。まるで、私なら気分転換にコーヒーでも飲んでリフレッシュするような感じです。

 街には、ハート形の背景に「I love アッラー」と書いてあるようなポップなキーホルダーや飾り物も売っていました。もちろんアッラーは厳しい面も持つ神ですが、イスラムに「かわいい」感じの側面もあることがすごく意外でした。

シリアの人々と交流する中で、兼定さんは、イスラムを信じる人々が「悲しみ」を乗り越える方法に気付きます。記事後半では、ムスリムの心を支える「完全な存在」についても聞きました。

「アッラーを信じる人は絶望しない」の意味

 ――イスラムにおける「悲しみ」との向き合い方が、ご自身の研究テーマになりますね。

 大学生のとき、友人が自殺するという経験をしたこともあり、若者の生きづらさや心の問題について、個人的に関心を持っていました。

 シリアで内戦が始まる直前の…

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