1年前にパレスチナ自治区ガザに軍事侵攻したイスラエルですが、戦闘終結のめどがたたないどころか、隣国レバノンにも戦線を拡大し、イランとの衝突も激しさを増しています。ネタニヤフ首相は、なぜ戦争をやめないのか。テロリズムや反乱の歴史に詳しい英キール大学のチャールズ・タウンゼンド名誉教授に聞きました。

 ――「ミスター・セキュリティー(治安対策)」を自任するネタニヤフ氏ですが、国連大使だった1986年に自らが編集、執筆した「テロリズム 西側はどう勝利できるのか」というタイトルの本を出版しています。あなたはこの本について、「テロリズムとテロ組織を融合させ、2001年に米ブッシュ政権が宣言した『テロとの戦争』と共鳴した」と自著で指摘しています。どういうことでしょうか。

 「テロ組織」は具体的な組織であり、少なくとも理論上は排除できます。一方、「テロリズム」は概念なので、消し去れません。二つの異なるものを混同した「テロとの戦争」は、「悪に対する文明の戦い」といった壮大なレトリックを数多く生みました。

 ネタニヤフ氏の本は、イスラエルを西側の民主主義、善なるものを体現するものとして描き、その敵については非常に観念的な存在として表現しています。「テロリズムの手法は邪悪なもの。だから、彼らが掲げる大義に正統性などない」という論法です。

 イスラエルの占領に苦しむパレスチナ人の抵抗運動という見方はしません。テロを生んでいる根本的な原因に向き合おうとしないのです。今も多くの政府が、自らに不都合な反対派を非合法化するために「テロリスト」という言葉を使っているのと同じです。彼の本はこのレトリックを先取りしていたのです。

 ――「テロとの戦争」の本質とは何だったのでしょうか。

 80年代以降、米国を含むほ…

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