神戸文化ホールは、1974年に兵庫高校の吹奏楽部が初めて全日本吹奏楽コンクールの舞台を踏んだ場所だ。
それから50年が経った今年7月27日の朝。楽器を持った高校生が行き交うそのロビーで、部長の坂本尚さん(3年)たち3人が手拍子をしながら裏拍のリズムをとっていた。
聴いているのは、スマホから流れる今年のコンクールの課題曲。いよいよこの会場で、神戸地区大会が始まる。
「裏拍を体にしみこませる。これがうまくいったら行けると思う」
坂本さんの表情は引き締まっていた。
連載 ユーカリの樹の下で
「名門復活」をめざす吹奏楽部を追います。
前日の練習を終えた後、部員たちは目を閉じて、神戸文化ホールをイメージした。
ファゴットの池田倖歩さん(3年)は、自由曲に選んだ「指輪物語」の最初の聴きどころとなる旋律が、思った通りに吹けた時を思い描いた。
目を開けると、手のひらに丸いカードがのせられていた。表には「魂」の文字。そして、裏にはパートリーダーの吉田悠輝さん(3年)からのメッセージがびっしりと書かれていた。中低音パートにも目配りしないといけない自分の大変さをねぎらう言葉に「めっちゃうれしい」。
高校A部門に出場する兵庫高校の演奏順は、昨年と同じ2番。この日の朝は午前6時15分から学校で音出しをし、会場に乗り込んだ。
そして、出番がやってきた。伝統の白いブレザー、そのポケットにはそれぞれの「魂」のカードが入っている。
「指輪物語」は、荒れ狂う炎のような激しい音色の後、静けさに変わる。胸を打つクラリネットの旋律を、フリューゲルホルンのソロでさらに浮き立たせた。ソロを吹いた杉山千海さん(3年)は「『力を抜いて吹いたらいいのに』と前日に言われて、腑(ふ)に落ちた。悔しい部分もあったけど、気持ち的にリラックスして吹けた」。
神戸地区には、実力のある学校がひしめいている。目標とする関西大会に進むにはまず、18校が参加した地区大会で、地区代表に選ばれなければならない。
部員のだれもが、良い演奏ができた、と手応えを感じていた。
審査結果は、会場で発表される。メンバーは「金賞」の声を、顔を伏せて祈りながら聞いた。
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だが、耳に届いたのは、厳しい声だった。
「兵庫高校、銀賞」…