英語での対話の授業で生徒と話す、かえつ有明中の田中理紗教諭=6月26日、東京都江東区東雲2丁目、かえつ有明中学校

 変化する社会での教育や学びのありかたを探る「未来の先生フォーラム」が29日、8回目の開催を迎える。中東で開かれた世界の教育者が集うフォーラムを手がかりに始まり、昨年は教員ら4千人超が集まるまでに。今年は、探究学習や生成AIと教育など100を超えるプログラムが用意されている。「テーマ横断で多様な内容を準備した。参加者が学び、つながれる場をつくりたい」と実行委員長の宮田純也(なおや)さん(33)は言う。

 フォーラムは、宮田さんが2017年に始めた。早稲田大大学院教育学研究科で、学校教育の変化や独自の教育理念を掲げるオルタナティブスクール、フリースクールを研究。ドバイで開かれた世界の教育者が集うフォーラムに参加し、「多彩な分野の教育者が互いの批判ではなく、『これも、あれもやりたい』と前向きに語る姿を見て、日本でもと考えた」。

 日に10人以上の教育関係者に直接会って賛同者を募り、5カ月後に初回を開くと、2500人余りが来場。SNSで情報が広がり、昨年、参加者は教員やNPO関係者、研究者、学生ら約4500人に上った。今年のテーマは「学校教育の未来」だ。

 「中高におけるこれからの授業づくりを考える」というセッションに登壇する私立かえつ有明中(東京都江東区)の田中理紗教諭(38)は、対話の授業を重視。同校の独自教科「サイエンス科」などで思考力や創造力の育成を目指す。

自分と相手のもやもやを考え、対話

 6月末、中3のサイエンス科の授業では「MOYAMOYA探究」に取り組んでいた。手順は、①各自が紙に自分のもやもやを書き出す②話し手の生徒がもやもやを一つ選んで話し、聴き手は伝わってきた感情を伝える③聴き手は、話し手の感情の奥にある「ニーズ(欲求)」を話し手に伝える④話し手はしっくりくるものとこないものを話す――という具合だ。

 「おはようと声をかけても無視されてもやもや」。ある生徒がそう言うと、周りの子が「それって疑問や違和感かな」「怒り?」「みじめ!」と返した。田中教諭は「対話で相手だけでなく自分が何を考えているかがわかる。フォーラムでも対話の輪を広げられたら」と話す。

 私立宝仙学園小(東京都中野区)の吉金佳能(かのう)教諭(41)はフォーラムで、探究学習の実践をテーマに講演する。

テーマを自分事にすれば動き出す

 同校が設ける独自の「創造探究」の時間。4年生の授業では、宿泊行事のオリジナルガイドブックを作っていた。児童はネットで宿泊地の近くにある遺跡や地形、生物などを調べている。

 吉金教諭は「すごい」「どうやって調べた?」と声をかけて回った。「自分の興味関心を見つけるのに苦労する子もいるが、テーマを自分事として考えられれば動き出す。教師の役割は、子どもに伴走すること」

AIが間違いをわびる

 教育活動とテクノロジーの可能性について発表するのは、東京学芸大学付属小金井小(東京都小金井市)の鈴木秀樹教諭(58)だ。5年の社会の「工業」の授業では、児童がスクリーンの台所の絵にある工業製品を挙げ、それが何から出来ているかを生成AIで調べていた。ある子が「AIがプリンを工業製品ではないと言ってきた」と鈴木教諭に言いに来た。「プリンは工場でつくるんじゃないんですか、と聞いてみたら」。助言通りに児童が聞くと、AIが「すみません」と間違いをわびたという。

 「AIは教室で、教師と子ども以外の第3の存在。一人ひとりの子どもの問いに答えてくれる」と鈴木教諭。「教育界はAIに対して良くも悪くも興奮気味だが、AIが教科の目的達成に役立つ授業とはどのようなものかを参加者に訴えたい」という。

 未来の先生フォーラム2024(実行委員会主催、朝日新聞社など共催)は、オンライン視聴のみのプログラム(29日~8月2日)と、会場参加型のプログラム(9月14・15日)がある。オンライン視聴のみのプログラムは、だれでも無料。会場参加型は教員・学校関係者は無料。一般参加者は2日間で3千円。申し込みは、特設サイト(https://mirai-sensei.info/)から。(編集委員・氏岡真弓)

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