第107回全国高校野球選手権の地方大会は29日、全49大会が幕を閉じた。今から約1カ月半前、沖縄大会の開会式で、県内のある3年生部員の「手紙」が紹介された。
今年に入って大腿骨頭壊死症(だいたいこつとうえし)という難病が見つかり、入院が必要になったこと。部員が9人しかおらず、仲間に迷惑をかけてしまったこと。監督が大会直前までベンチ入りを模索してくれたことがつづられていた。
道具を買ってくれたり、毎日弁当を作ってくれたりした両親に対して「申し訳ない思いと感謝の思いでいっぱいです」。最後に「僕はこれから、野球はできなくなると言われています。みなさん、最後まで全力でプレーし、野球を楽しんでください」と結ばれた。
チームは他校から選手を借りて出場し、初戦で敗れた。その部員は病院から特別に許可を得て、球場を訪れていた。「勝てなくてごめん」「ううん、おつかれ」。試合後、車いすの彼を仲間たちが囲んだ。涙を流して見守っていた両親を含め、支え合うことの素晴らしさを感じる光景だった。
開幕直前、第40回大会(1958年)に沖縄勢として初出場した首里の資料室を訪れた際には、戦地にかり出されて亡くなった学生たちの幼い表情に、衝撃を受けた。彼らがやりたかったこと、将来の夢は何だったのだろうか。戦後80年の今年、49代表校の選手たちには、好きな野球ができることの尊さを少しだけでも感じてほしい。
全国を見渡すと、49大会の決勝のうち、24試合が1点差。過去最多の11試合が延長タイブレークに突入した。
神奈川の準々決勝では平塚学園が選抜王者の横浜を九回2死まで追い詰めた。京都の決勝は、鳥羽が昨夏の甲子園を制した京都国際に八回表までリードするなど食い下がった。
優勝候補と呼ばれるチームでも、簡単には勝ち抜けないのが高校野球の魅力でもある。そんな白熱した試合の中、今年も5校の甲子園初出場校が誕生した。
上位進出校の打球の勢いは強く、昨春に導入された低反発バットの影響をほとんど感じさせなかった。選手たちの適応力には驚かされるばかりだった。