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(16日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 広陵1―8東海大相模)

 「ラッキーボーイ、行ってこい!」

 広陵(広島)の松村悠叶(はると)選手(3年)が代打として送り出されると、ベンチからはそんな声が上がる。応援席の声援も、一段と大きくなる。

 広島大会では全試合に代打出場し、6打数5安打3打点。打席に入ればヒットを放ち、その勢いは甲子園でも止まらない。熊本工(熊本)との初戦は、九回に先頭打者で中越え二塁打。通算打率を8割5分7厘に伸ばし、「甲子園で打ててうれしいっす」と、まぶしい笑顔を見せた。

 代打で出塁すると、きまって代走の空(そら)輝星(こうせい)選手(2年)と交代する。1打席限りの勝負にかける松村選手は「技術があるわけじゃない。運もありますよ」。運をつかむため、日々のゴミ拾いを欠かさない。自主練習のパートナー、枡岡憲志選手(3年)も「松村が打席に入ると、なぜか甘い球がくるんですよね」とうらやむ。

 「とにかく明るくて、打席に立つとムードが良くなるし、ワクワクする」(只石貫太主将)との期待は、当然ながら運だけではない。

 昨秋はベンチ入りできず、悔しくて心が折れそうになった。それでも、球のコースをイメージしながら、素振りやトスバッティングを重ねた。

 その練習姿勢を見た責任教師の中井惇一さん(29)が「松村はチームに必要」とミーティングで口にした。思いがけぬ言葉に自信を深め、一心にバットを振り続けた。「ばり(広島弁で、とてもすごいの意)努力家ですよ。スイングのことなどを聞いてきます」と、1番打者の浜本遥大(はると)選手(3年)も言う。

 その後、春の選抜大会で内野手としてベンチ入りを果たしたが、出番がないまま2回戦で敗退。春の中国大会での代打で信頼をつかむと、夏の広島大会で努力が実を結んだ。初戦で代打起用され、追い込まれてから打球を左前に運んだ。「それからは、球を引き込んで合わせるっていうか、そんな感覚をずっと持ち続けています」

 広陵は16日の第1試合で東海大相模(神奈川)との3回戦に臨んだ。松村選手は3番一塁手で先発メンバーに抜擢(ばってき)された。「重責だけど、やってやる」と気持ちを熱くした。

 ただ4打席立って安打は出なかった。試合後、「代打のときのような冷静さを保てなかった」と悔しがった。後輩には「この悔しさを忘れずに来年、広陵の野球をやってほしい」と期待を込めた。(根本快、上田雅文)

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