夏休みの夜、小学3年の男の子が有明海に注ぐ川に落ち、干潟にはまって動けなくなった。有明海は干満差が最大6メートルもある。しかもこの日は大潮。川の水位はどんどん上がっていく――。そんな間一髪の状況から男の子を救ったのは、危機に気付いた近所に住むノリ漁師やその妻らだった。
早津江川にある佐賀市川副町の戸ケ里漁港は、養殖ノリ漁の拠点。潮が引いたときは干潟が現れ、カニやムツゴロウの姿を見ることができる。
7月25日、男の子は夏休みで、祖父母の家に来ていた。前日、戸ケ里漁港を家族で散歩。この日は午後6時過ぎ、1人で自転車に乗って来た。
港から海に向かって斜めに入っているコンクリートの桟橋でカニとたわむれていたとき、足を滑らせ、川に落ちてしまった。ぬかるむ干潟の泥にはまり、抜けない。
夜の7時過ぎ。あたりに人はいない。「誰か助けてください」と叫んだ。
近所の女性が声を聞きつけ、男の子を見つけた。引っ張り上げようとするが、抜けない。女性は「9歳の男の子の下半身が埋まって動けない。今、潮が満ちてきている」と119番通報した。時刻はちょうど日没の午後7時半ごろになっていた。
「僕はこのまま死んじゃうの」
周りの田んぼに消防のサイレ…