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津波で壊滅的な被害を受けた福島県浪江町請戸地区。防護服を着た警察官らによる捜索ががれきの中で続いていた=2011年4月
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 自宅2階の窓ガラス越しに、どす黒い津波がすごい勢いで流れていくのが見えた。

 死を覚悟した熊川勝さん(88)は、震えている妻の洋子さん(当時72)の顔をぐっと胸に引き寄せた。津波を見ないように。最期、少しでも怖い思いをして欲しくなかった。

 津波が玄関を突き破り、階段を一気に上ってきた。

 「今までありがとう」。洋子さんが、小さくうなずき返した。

 海水が室内になだれ込み、顔だけが水面に出ている状態になった。洋子さんが水中に引きずり込まれた。

     ◇

 自宅は、海まで約800メートルの福島県浪江町請戸(うけど)にあった。2011年3月11日。町内でのグラウンドゴルフから車で帰宅中、大きな揺れに襲われた。

 急いで自宅に戻ると、洋子さんが1階の居間に座り込んでいた。2人とも大津波警報が出ていることは知らなかった。津波が来るなんて思いもしなかった。

 勝さんは屋根瓦の様子を見るため外に出た。近所の人と5分ほど立ち話をしていた時、水しぶきが顔にかかった。顔をあげると、「真っ黒な高い壁」が迫ってきていた。

 「津波だ!」。自宅に駆け込…

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